DISC REVIEW 月詠み

1st EP『アナザームーン』Official interview

 



INTERVIEW

 


ーー今作の構想はいつ頃からあったんでしょうか?

ユリイ・カノン:去年の8月にリリースしたミニアルバム『月が満ちる』の時点で構想はなんとなく頭にありました。物語はそこで一旦は終わったことになってるんですけど、そのなかで語られていたけど世に出ていなかった楽曲だったり、書き切れなかったものをまとめて出そうというころから始まってます。あとは「ストーリーがこういう風に展開していたらどうだったんだろう」というものもあります。例えば「イフ」という楽曲があるんですけど、そういう“もしも”というものも集めたEPになってます。

 

ーー今作にはアニメ主題歌などのタイアップ楽曲も多いですが、そうした楽曲単体として成立させることと、EPのコンセプトを成立させることの両立に難しさはなかったですか?

ユリイ・カノン:担当することになった作品と、自分たちがやってるものの共通点をまず見つけていって、考え方が似てる部分や言いたいことが共通してることを集めて、どちらの物語でも通用する歌詞で起承転結になる楽曲を作ったつもりです。

 

ーーそもそも楽曲で物語を編んでいくという月詠み独自の表現スタイルはどのように生まれたのでしょうか?

ユリイ・カノン:自分は映画をよく観るんですけど、映画の挿入歌や主題歌のなかにはかなり作品に寄り添ってるものがあります。そういう曲を聴くと、プラスで映画のことを思い出して、曲に深みが生まれて背景が思い起こされてくるんです。そういうものを自分でもやってみようというところから始まりました。

 

ーーそういう意味では演劇の劇伴や映画のサウンドトラックに近いものがあります。

ユリイ・カノン:そうですね。曲だけで終わらずに、その背景が浮かぶように作ってます。あともう一つ月詠みを始めた理由として、元々はボーカロイドを用いた楽曲を作ってはいたんですけど、曲によっては人間が歌うのに適したものがあって。物語には関連しないけれど、人間歌唱の方がいいものもやっぱりあるので、そういうものも今後は月詠みとしては表現していくことになるのかなと思ってます。

 

ーー月詠みの作品は音楽だけでも楽しめるのが魅力ですよね。

ユリイ・カノン:サブスクだったりCDからは音楽だけしか聴けないので、絶対的に物語に触れないと理解できないようには作ってなくて。より深く「この曲は何を言ってるんだろう」と考えた人が物語にたどり着いてくれれば嬉しいなと思ってます。

 

ーー曲と物語は同時に制作するんですか?

ユリイ・カノン:どちらもありますね。先に物語ができあがって、それを実際に曲として起こしたパターンもありますし、曲が先にできて、この曲は物語のどこに入るだろうかと考えて「これはもしかしたらこの場面で出てくる曲なんじゃないか」となることもあります。

 

ーー例えば音楽が先にできて、それによって描いていたストーリーが変わっていくなんてこともあるんですか?

ユリイ・カノン:あります。作品も生きているものだと思ってて、作ってるうちにどんどん形が変わっていきます。最初はこういう風に作ろうと思っていたものが、完成した時には全然違ったものになっていたりして、そういうところが月詠みの面白いところですね。

 

ーーでは1曲ずつ聞いていきます。1曲目の「月灯りの消ゆまで」は1分30秒ほどのインストトラックです。これはどんなイメージで作りましたか?

ユリイ・カノン:これは1stストーリー「だれかの心臓になれたなら」の亡くなった主人公の一人を、過去になっていくものとして月灯りに喩えて、その微かな月灯りを頼りに前に進んでいくようなイメージです。

 

ーーこの曲を始め、月詠みの楽曲にはほぼすべてにピアノが使われていますが、ユリイさんにとってピアノはどんな存在でしょうか?

ユリイ・カノン:元々ボーカロイドの楽曲においては、あまりピアノを使ってる楽曲は少なかったんです。新しく月詠みを始めるにあたって何を軸とするか、その“らしさ”みたいなものをどう表現するべきかと考えた時に、物語にもピアノが何度か出てくるので、メインで使っているのが一番の理由です。やっぱり美しくもあり、同じ音色でありながら激しさも表現できる。そこがピアノの良さだと思います。

 

ーーピアノのその“激しさ”が表れてるのが2曲目の「逆転劇」ですよね。

ユリイ・カノン:「逆転劇」は口ずさむのも難しいくらいメロディラインの上下が激しくて、転調も多いし、拍子も変わるんですけど、それは最初から意識したものでした。というのも、もとになったタイアップ(TVアニメ『異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する〜レベルアップは人生を変えた〜』)が異世界と現実を行き来するストーリーなので、それを音楽で表現したかったんです。

 

ーーボカロ出身のユリイさんならではの激しいメロディですが、それを歌えるYueさんもすごいです。

ユリイ・カノン:ずっと「これ歌えるのかな?」って思いながら作ってました(笑)。人間が歌えるようなものにはある程度しているんですけど、Yueが歌うものに関してはあまりそこは気にせず、思い付いたままのメロディを表現してて。それを歌いこなせるYueだからこそ生まれてる楽曲はいくつもあります。

 

ーー歌詞はどんなことを表現しましたか?

ユリイ・カノン:言葉の選び方としては、最初に出したものを後から否定する、いわゆる二重否定のようなものにしてます。あとは、歌詞に“果てのない暗い闇でなければ/幽かな光も見えずにいた”とあるんですけど、暗闇の中にいるからこそ見つけられる光があって、そういう絶望的な状況の中でこそ見える希望を歌ってます。

 

ーー暗闇の中にいるからこそ見つけられる光……まさに“月”もそうですよね。ユリイさんが“月”に惹かれる理由は何でしょう?

ユリイ・カノン:月は夜を象徴するものですし、僕はどちらかというと暗い世界に生きてて、その中でもよすがとなるもの、寄る辺となるものは月なんです。もちろん昼にも月は存在してて、普段は分からない存在ではあるけど、常にそこには存在してるから見つけられる人には見つけられる。自分はそういうものになりたいと思ってます。



月詠み『逆転劇』Lyric Video

ーーでは「夢と知りせば」はどんなことを表現しましたか?

ユリイ・カノン:この曲は、これまで月詠みで自分が表現してきた“夢”というものが主題になってます。この歌詞の主人公は昔はもっと強く夢見ていたけど、大人になってそうじゃなくなってしまって、その現実とかつての自分の理想とのギャップに苦しんでいるというか、それでも生きていて、過去のことを思い出しながらあらためて歩く道を見つけていくようなイメージです。

 

ーー歌詞には言葉遊び的な要素も感じます。“ラムネの中のガラス玉のように”と終盤の“時から/胸の中で”の2つのフレーズが、音的に“ラムネ”で掛かってるんですよね。

ユリイ・カノン:そうですね。むしろ後半の“見つけた時から/胸の中で鳴り止まない音”というフレーズの方が先に思いついて「これってラムネに聞こえるな」って気づいたところから生まれてるんです。楽曲において押韻は意識するところで、同じ近い音や同音異義語は常に考えながら、聴いてて気持ち良くなる言葉選びを意識してますね。

 

ーー編曲に参加したNaoki Itaiさんとはどんなやり取りをしましたか?

ユリイ・カノン:“夏らしさ”みたいなことは言っていたと思います。基本的な楽器は自分が作ってて、あとはクリーントーンのアルペジオだったり、さらに細かなところでの表現をお願いしました。一番力になったと思うのは音作りの面です。夏っぽい爽やかさと切なさを音で表現してもらいました。

 

ーーラムネ然り、サウンド面然り、夏を舞台としたのはなぜですか?

ユリイ・カノン:夏が一番自分は気が滅入る季節なんです。今も都会の夏が暑くて、なんでこんなに苦しいんだろうと思ってて。子供の時は夏が好きだったんです。子供の頃は暑くても夏休みだったり遊ぶことがいっぱいあって楽しいものでした。でも、それが大人になったら夏はただ苦しいだけのものになってて。




月詠み 『夢と知りせば』 Music Video


ーー自分にとって大人になってしまったことを象徴する季節が夏であると。それでは次の「イフ」はどんなことを表現しましたか?

ユリイ・カノン:これはスマホゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』に書き下ろした曲のセルフカバーなんですけど、『プロジェクトセカイ』の中のストーリーと、自分たちの月詠みのストーリーの両方を描いている歌詞になっていて。常に「こうしていたらどうなっていただろう」と考えることがあると思うんです。自分たちは間違った道を進んだかもしれない、けど、逆にそうじゃなかった方にはこっちで得られたものがなかったりするかもしれない、ということを歌ってます。

 

ーーこの曲は“なんでも消費される/ひたすらに生きた証を形にさせてくれよ”、“美しい嘘も汚れた真実も/これも人の在り方だと、全てを許せたら”など、印象的な歌詞が多いです。

ユリイ・カノン:『プロジェクトセカイ』は音楽をしている物語で、自分もなんで音楽をやっているんだろうと考えた時に、生きた証を形にしたいからなのかなって。それと美しい嘘だったり、汚れた真実だったりも含めて、人間という存在を受け入れたい。それも人間の一部分だから目を背けずに受け入れたいという思いを歌っています。



月詠み『イフ』Music Video

 

ーーサウンド面では「花と散る」のジャジーなアレンジも印象的でした。

ユリイ・カノン:「花と散る」は「そういえば月詠みでこういうの作ってなかったな」と思って作り始めました。自分はジャジーな要素が好きなので。歌詞の面では、今までは暗い楽曲であろうと、苦しいことを歌っているものであっても、最後には何かしらの希望を残してきたんですけど、この曲に関しては最後までそれが解決していなくて、主人公が堕ちていく様を描いてます。

 

ーーそれはこの曲が1stストーリーに登場するユマが死ぬ前に残した楽曲という立ち位置だからですか?

ユリイ・カノン:そうですね。絶望していく様を表現していますね。

 

ーーその“堕ちていく”後に来るのが「救世主」です。

ユリイ・カノン:これはまさに絶望から救い上げる曲です。この曲のテーマは、誰かの救いになりたいと思いつつも、自分も救いを求めてて、人を救いたいと思ってる人も、結局は誰かに必要とされたいという弱い部分があるということを歌ってます。

 

ーーこの「救世主」と「逆転劇」はどちらもアニメ主題歌ですが、この2曲がEPの中でも群を抜いて力強さを感じます。

ユリイ・カノン:両方ともこういうアップテンポなものを久々にやりたいタイミングと重なったんです。もしかしたら激しすぎたんじゃないかと思ったんですけど、結果的にOKを貰えました。もちろん作りたいものもあるんですけど、作ってみたら面白いんじゃないかみたいなものがきっかけになって、結果として良いものが生まれることもありますよね。作品に触れて、その内容を咀嚼して作るんですけど。そもそもその作品がなければ出てこないこともあるんだと思います。



月詠み『救世主』Music Video

 

ーー最後の「春めくことば」はどうでしょう?

ユリイ・カノン:この曲はリノが初めて作った曲ということで、じゃあどんなものを作ったんだろうと考えた時に、最初ならわりとストレートなものを作るんじゃないかと思ったんです。でもそのなかにもちゃんと響くものがあったからこそ才能を感じさせたはずで。初めての曲だけど、光るものは絶対に必要という、そのバランスを意識しながら作りました。

 

ーーメロディが綺麗ですよね。とても繊細で、光を感じる曲です。

ユリイ・カノン:気持ちとしては自分と合致するものがあって。自分も最初に作ったのはこういうミディアムテンポの曲でした。そういう初心を思い出しながら、技巧的なものというよりは、単純に言葉とメロディで良いものを表現したいというところから作った曲です。

 

ーーユリイさん自身の初心も表れていると。

ユリイ・カノン:そうですね。原点に近いというか。

 

ーーこのEPは月詠みにとってどんな意味を持つものになりましたか?

ユリイ・カノン:補完に近いですね。それと、これまでやってこなかったような音楽性にも挑戦したことで、月詠みがこの先どんな風に進むのかという方向性が広がって、より今後を期待させるものになったと思います。

 

ーー2ndストーリーを期待してもいいのでしょうか?

ユリイ・カノン:まだ頭の中にある状態ですけど、少しずつ見えてきてはいるので、もう少しお待ちいただくことになるのかなと思ってます。1stストーリーは月詠みを始める前からあった物語だったので、ここからはまったく新しいものを作るということで、それが自分でも楽しみです。


取材・文:荻原梓

 



INFORMATION


YouTube配信ライブ】
月詠み Acoustic Live「海と月」
https://youtube.com/live/SYOFADiGq_A

日程:2023921() 22:00
出演:ユリイ・カノン Yue 石川裕大 鈴木栄奈
会場:水族館

 

【ワンマンライブ】
月詠み LIVE 2023ANOTHER MOON
日程:
2023112()
時間:OPEN 18:00 / START 19:00
会場:Spotify O-EAST
<チケット>
スタンディング ¥5,800 (税込)ドリンク代別
ご来場いただいた方、全員に『月詠みオリジナルステッカー』ステッカープレゼント

 

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