DISC REVIEW THE BACK HORN

New Album『REARRANGE THE BACK HORN』 Official Interview

 

今年結成25周年を迎えたTHE BACK HORNがアニバーサリー作品のテーマとして選んだのはこれまで世に送り出してきた作品をリアレンジし、新たな解釈を提示すること。ジャズやボサノバ、ラテンやカントリーなど、さまざまなジャンルの音楽要素を昇華した本作について、制作の経緯やアレンジのポイント、特に思い入れの深い楽曲について、メンバー全員にインタビュー。バンドミュージックにおけるアレンジとは何か?そして、このタイミングでリアレンジ・アルバムを作った意義を訊いた。

 

 




INTERVIEW



――まず、リアレンジ・アルバム制作の経緯を教えてください。

松田:結成25周年に向けて作品を出していこうという話の中でいろいろとアイデアを出していく段階で、僕からこういうアルバムを作るのはどうかとみんなに提案したんです。思い立ったきっかけは「銀河遊牧会」というファンクラブイベントで、バックホーンの楽曲をアコースティックアレンジという形で原曲とは違う雰囲気で披露する機会がありまして。毎年一回のイベントでおよそ3曲ぐらいやってきたのが好評を頂いていて。何年もやって来た中でアレンジした楽曲も増えてきたので、それを軸に曲をセレクトしたり全体のバランスを見たりしてアルバムにするのはどうかな?っていうところから始まっていきましたね。

岡峰:「風とロック」でアコースティック的な感じでやれないかみたいなこと言われたこともあったし、OAUがオーガナイザーを務めるキャンプフェス「New Acoustic Camp」にお誘いを受けた時期もだいたい同じで。普段のバーン!ってやるライブじゃないライブを経験して、「これはこれで面白いね」っていう中で、その「銀河遊牧会」でもこういう形でアレンジして演奏するのも面白いんじゃないかっていうのが最初だったと思うんですけどね。それが20142015年だったのかな。

 

――一番最初にリアレンジした曲ってどれですか?

松田:「冬のミルク」だったと思います。

 

――最初はどういう風にアレンジを?

松田:最初、みんなでスタジオに集まってアレンジしている時に、ボサノバ風のリズムでやった感じがすごく良かったんですよ。原曲が持ってる切なさを出しつつ、リズムの部分での変化も与えられるのもあったんですね。この曲はバンドの始まりの曲でもあるけど、自分の中でリアレンジの始まりの曲という印象もあって。自分たちがリアレンジ・アルバムにトライするにあたっての第一歩目という想いがあったんです。

 

――今回のリアレンジ・アルバムは使用楽器も普段と違うと思うのですが、岡峰さんはどんなベースを使われたんですか?

岡峰:自分の中の縛りとしては普段使ってない楽器でやろうと思って、アコースティックのベースを軸にやりましたね。アルバムでは2本使ったんですけど、この曲(「冬のミルク」)ではYairiというアコースティックギターのメーカーなんですけど、そこが出してるアコースティックベースのフレットもない、ウッドベースに近いニュアンスも出るベースですね。

 

――ギターもアコギとエレキのバランスが新鮮です。

菅波:今回、将司はアコギを弾いてるんですよ。だからアコギのギタリストとしての山田将司の演奏を堪能するっていう意味では初なので、それは今回の目玉だと思います。それに対して俺は縛りとしてディストーションとかファズとかは弾かないようにしていて。エレキとウワモノで自分は世界観を広げる役割に徹しようかなっていう想いがありました。

 

――山田さんはリズムの部分は全部弾いてらっしゃるんですか?

山田:そうですね。全部アレンジも考えましたね。このリアレンジ・アルバムはアコギをちゃんと録りたいなと思って、気合い入れて新しいアコギを去年の秋ぐらいに購入して。そのマーチンのアコギが活躍しましたね。

 

――「冬のミルク」のアレンジに関しては?

山田:原曲で栄純が弾いてるコード感をあえて外して、カポをすることによって響きを変えたり。原曲のコードのテンション感からは見えない景色を作りたい、見えてなかった景色を見せたいなというところは意識しましたね。

 

――音圧が少ない分、景色も変わりますね。

山田:そうですね。あと、栄純のウワモノの妙もありますよね。

菅波:普段のバックホーンって基本がロックっていうのがあるんで、アレンジするときはロックプラス何かで、その“プラス何か”はふりかけ程度の要素でしかないんですけど、今回はもう何十年代のどんなジャンルと何が合わさってるかもむき出しになっちゃうので、ウワモノを入れるんだったら覚悟決めて入れないとダサくなってしまうので、そこはガチでやりましたね。

 

――例えば「冬のミルク」だとボサノバというジャンル感が無化するようなウワモノだとダサくなる?

菅波:そうなんですよね。根っこにあるのはたぶんアコースティック感だと思うので、裸のバックホーンみたいなネイキッド感が崩れるほど装飾過多にすると絶対違うなと思ってたんで、どう添える?というところは時間がかかりましたね。この曲だと、後ろでふわっと鳴ってる音はシンセのパッドなんですけど、ああいうのもしっかり目立つ隙間のある音像の中で鳴るんで、「誤魔化しがきかないな」と思いながら、音色選びに時間かけてましたね。

 

ーーもう一曲のリード曲「罠」ですが、このビッグバンドジャズ的なアレンジを主導したのはどなたなんですか?

菅波:これも将司が作ってくれて。

山田:「罠」という曲が持つ怪しさをどういう解釈にしてくのか?という時に、最初にこのハンドクラップが思い浮かんで。それと、アコギのフレーズを弾いてる時に一発目のオクターブ下の方を抜いてやって、そこからドラムを付けたらビッグバンドのフレーズみたいな感じに聴こえて。この解釈は「罠」の見せ方としてはいいなと思ってからはスムーズに制作が進みましたね。

 

――サビの軽快さによってオリジナルとはまた違う意味をまとった印象があります。

山田:確かに。“命さえも弄ぶのか”という歌詞の聴こえ方も、原曲の激しい音とこの軽快な感じでは見えてる視野が違う感じというか。それは俺もちょっと感じましたね。歌い回しもAメロはちょっと酔いしれてるというか操ってるというか、そういう雰囲気もちょっと出したいなと思っていました。


 

 

――なるほど。では皆さんおのおの手応えがあった曲を1曲ずつ教えてもらえますか。

菅波:俺は「羽根〜夜空を越えて〜」が好きで。ストイックなドラムとベースのアレンジで、ほぼリズムチェンジはないんですね。それって、たぶんバックホーンの音楽史上だと初なんですけど、その良さを今回体感したというか、リズム隊がそうやって支えてくれることでウワモノのアレンジのスケールや自由度が高くなるんだなと思ったんですよ。このリズムのアプローチってバックホーンとしてはだいぶ思い切ったシンプルさだと思うんですけど、シンプルであればあるほど洗練されてるように感じるし、大人っぽさやおしゃれさも出るんだなっていうのはこれをやってみて思いましたね。しかも2人のタイム感や生演奏ならではなんですね。打ち込みで淡々とああいうアレンジをしたら全然質感が違くて、人間がタイトに淡々とやってるっていうことの温度感が大人っぽくて。リズム隊がしっかりしてればウワモノはリズムをちょっと揺らしたりずらしたりするのがカッコいいということに気づいちゃって、最終的にギターのソロ演奏にすごい時間かかってしまったんですけど。

岡峰:(笑)。また時間かかったんだ。

菅波:もう波形で見たりとか。今まで細かく見て32分音符ぐらいしか見てなかったけど、64とか100なんぼみたいな数字でグリッド見てみて、「100何十何分の一後ろで弾いてみるか」とかチャレンジし始めて(笑)。

 

――(笑)。再度じっくり聴いてみます。この曲の岡峰さんのベースは「美しい名前」などでお馴染みなリフなのも面白いです。

岡峰:和音の感じですよね。いや、なんでこのアレンジになったのかわかんなくて。これも「銀河遊牧会」でやってたんですけど、どういう流れでこうなったのか、なんとなくセッションでなったのか誰かアイディアを出したのかはちょっと覚えてないんですよ。

松田:ワンコードというか、一定なフレーズでベースが始まるのはいいんじゃないか?ってことだったんじゃないですかね。原曲は作り上げられた世界観だったんで、思い切ってもっとシンプルに丸裸にするところから始まって、もうどれだけ我慢するかみたいな(笑)。ドラムも本当にシンプルに思い切ってやったんですよ。

岡峰:この「羽根〜夜空を越えて〜」を今回入れたいってなってから、「銀河遊牧会」の時の音源を聴いたんですけど、自分が一番びっくりして(笑)。一番のワンコーラス終わったらちょっと変化つけてくるのかなと思ったら、「変わらない」って。「二番のサビ来たら変わるかな?……変わらない」、「間奏行っても変わらない。まじか?」って。性格上ちょっとアレンジしたくなっちゃうんですけど、ここまでシンプルにやってるんだなと思って自分でもびっくりしました。

菅波:マニアックかもしれないけど(笑)、このリズム隊の感じは絶対聴いたことないと思うんですよ

 

――ぜひ。では山田さんの1曲は?

山田:俺はアコギのアレンジで「美しい名前」の入りのアルペジオが自分の中で出来たときにこの曲の持ってる切なさと寂しさみたいなものが、いいバランスでアコギだけでも表現できたなと思って、この見せ方が曲の頭でできたのが嬉しかったですね。

岡峰:元々がベースのイントロで、あの象徴的なものを変えないといけないってなると難しいよね。印象をガラッと変えさせるのは。

山田:そう。で、歌始まりにはしたかったけど普通のストロークの弾き語りとかアルペジオの弾き語りもまたなんか違うなと思ったんで、この指弾きのフレーズができたときにある意味また違う象徴的なグッと引っ張っていけるものができたなという感覚はありましたね。

 

ーー岡峰さんは? 

岡峰:俺はシンプルに楽しかったのは「サイレン」ですかね。特に何も考えずドラムに合わせただけだったんですよ。その感じもバックホーン直球のアレンジというか、そういう感じはやってて楽しかったですし、ライブでもフックになるのかなと思ったんですよね。7月からのツアーで。

 

――この曲は2ビートの解釈を変えるとスカになるというところが面白いですね。

菅波:裏打ちで合わせるっていうね。

山田:唯一、リアレンジで原曲よりテンポが上がったのはこの曲だけかもしれない(笑)。

岡峰:あ、そうなんだ?ちょっとカントリーな感じがするよね。

松田:スカの要素もあるしカントリー要素もあるし。

菅波:レゲエみたいになるとこもあるし(笑)。いかんせんミクスチャーにならざるを得ない感じではあったので、もう割り切っていい意味で軽はずみな感じでウワモノを入れましたね。サビに入ってる鍵盤のフレーズとかもコード進行がちょっとディスコ調なんですよね。まぁ、捉えようによってはなんですけど。

 

――渋くなるばっかりじゃないという?

菅波:そうそう。まさにそれは“「サイレン」が入っててよかったポイント”ですね。

 

――松田さんはいかがでしょう?

松田:僕は「夢の花」ですかね。原曲はサウンドがウエットな感じで切なくて、自分自身を振り返る、でもいつか咲き誇れるようにっていう願いの曲が、リアレンジではカラッと晴れて、力強く聴こえるように感じたんですね。その変化が「ああ、こういう聴こえ方でもあの曲が染み渡ってくるんだな」って思いましたね。原曲を聴いてる方にとってはどの曲も聴いたときの状況だったり、楽曲へのそれぞれの思い入れもあると思うんで、リアレンジすることで「どういう風に変わっちゃうんだろう?」という心配もなくはないと思うんです。だけど自分たちの中ではその距離から離れないし、別の曲の描き方をアレンジでできてるなって想いがあって、「夢の花」はリアレンジしてみて改めていい曲だなと思いましたね。

 

――そして新曲の「Days」がラストに収録されていますが、このリアレンジ・アルバムに収録する新曲という立ち位置で書かれた曲なんでしょうか。

松田:そうです。そういうことをもとに作っていった曲です。

 

――松田さんによる歌詞は驚くほどシンプルですね。

松田:新曲も入れたいねって話にもなりつつ、どういうものとして作っていこうか?みたいなところからリアレンジアルバムの世界観に合う曲調がいいねと話して将司の曲ができて。歌詞はシンプルにこの25周年という今が一番いいと思えたというか。今が一番よくて、今がすごく大事で、積み上げてきたものは本当にかけがえのないものだよねっていう部分と、それって生きてく中でそれぞれの人の中にもそういうものがあると思うんです。例えば両親や兄弟、大切な人と喧嘩したり、嫌なこともあったりするけど、誰かと生きていく繰り返しの中で、「今」「今日という日」がかけがえのない輝きを放っていくように思える瞬間があったらいいなって、そういうものをこの曲で感じてもらえたらという想いで取り掛かりました。聴いてくれる人が、この曲に僕らとの関係や月日を重ねてくれたら嬉しいし、それぞれのDaysにも寄り添う曲になってくれたら嬉しいです。

 

――山田さんはこの曲の着想はどういうところだったんですか?

山田:このリアレンジ・アルバムの雰囲気の中で、どういう25周年のメモリアルな祝福感を出していこうかなと思ったときに、たまたまWeezerが去年“Seasons”シリーズを出したじゃないですか。あのシリーズの『Winter』を聴いてて、この漂う祝福感はなんなんだろうか?とずっと思ってて。そこから三拍子の曲はこのリアレンジ・アルバムの中にないし、メロディーがどんどん変わって行く感じや羽ばたいていく感じは25周年の曲に合うだろうなっていうところからですね。


 

――25年経っても新しく始まることがあることを実感できるアルバムだなと思いました。

松田:10周年でも20周年でもなくて、このタイミングだからこそできたっていうのはあって。且つ、アルバムとして一枚こういうのを残しておきたかったというか、例えばシングルのカップリングとかに入れるやり方やそういうライブ盤を出すこともできたのかもしれないのですが、このコンセプトで一枚アルバムを作るということが、バンドの中であってほしかったんです。それが熟するのと同時に自分たちがそれに向かう時期もあったと思うので、結果的にこのタイミングでよかったなと思いますし、今だからこそ生まれたアルバムだと思いますね。

 

Interview and Writing:石角友香