LIVE REPORT

くるり主催「京都音楽博覧会2023」2日目の10/9公演をレポート!

2023.10.13


京都音楽博覧会2023(day2)

2023年10月9日(日)@京都梅小路公園 芝生広場


秦 基博 | Saucy Dog | sumika | 坂本真綾
Tigran Hamasyan “StandArt” | 角野隼斗 | くるり



 

曇天ながら、雨に降られることなく迎えた2日目。開場を待ち構える人・人・人の前にやってきたのはFM COCOLO DJの野村雅夫だ。「昨日は雨の一日でしたが、今日は降ってません!」の声に湧く。本日のラインナップを紹介すると、ステージに呼び込んだのはくるりの岸田繁(Vo/G)と佐藤征史(B/Vo)だ。「今日出てもらうみなさんは音博初出演です。みなさんと一緒に楽しみたいです(岸田)」、「2日目のカレーぐらいコクのある1日にできたらいいなと思います(佐藤)」とくるりらしすぎるやりとりを見せ、いよいよ初めての“音博2日目“がスタートとなった。

 

秦 基博

2日目のトップを飾ったのは、秦 基博。1曲目となったのは、キーボードで奏でられた前奏に会場からため息が漏れた「鱗(うろこ)」だ。柔らかなアコースティックギターの音、澄み切った伸びやかな高音。いい風が吹いてきた。「2日目トップバッターということで元気ハツラツにいきたいと思ってます」と披露したのは、関西が舞台となったNHKの朝ドラ『おちょやん』の主題歌の「泣き笑いのエピソード」。日本の朝に元気を届けた歌から、老若男女みんなが口ずさめる「ひまわりの約束」へ国民的ソングが続く。ゆったりとしたテンポでひとつひとつ噛み締めるように言葉を放つと、梅小路公園を優しい空気が包み込み気持ち良い時間が流れていく。そこからは秦流のポップネスが溢れる「Life is Art !」、「二十歳の頃くるりの『図鑑』をめちゃめちゃ聞いていた。」とのエピソードを挟み、アコースティックからバンドサウンドへとグラデーションを描いて曲が厚みを増した「メトロ・フィルム」、壮大なサウンドに歌声が乗り、空へと広がっていったラストソング「イカロス」まで全6曲。トップバッターと呼ぶにふさわしい、どこまでも柔らかなステージだった。

| SET LIST
01. 鱗(うろこ)
02. 泣き笑いのエピソード    
03. ひまわりの約束
04. Life is Art !
05. メトロ・フィルム
06. イカロス
 
 
 
 

 
Saucy Dog

日本のポップスにおける永遠のお題にSaucy Dogが挑んだ「東京」。くるりにも言わずと知れた最高峰のそれがあるが、切々と積み重なる感情をしたためたそんな一曲からゆっくりと幕を開け、一転、爆発力のあるイントロから流れ込んだ「メトロノウム」も、今まさに充実期を迎えているバンドのみずみずしさが満開だ。「『京都音博』初めまして! 出演できて本当にうれしいです。鳴らせ~!」と石原慎也(Vo,Gt)がコールすると、秋澤和貴(Ba,cho)のベースがうなりを上げ「雷に打たれて」に突入。せと ゆいか(Dr,cho)のドラミングもろとも躍動感たっぷりに魅せていく。「現在を生きるのだ。」でも、梅小路公園に広がるシンガロングが何とも感動的に響く。「四季を、日本を強く感じられる京都がとても好きです。最高の気持ちでここに立ってます」と石原。クライマックスは、一筋の希望のメッセージを託した「怪物たちよ」、抑制されたビートに美しいコーラスワークが溶け合う「優しさに溢れた世界で」。若手バンド随一の存在感&親近感で魅了した、Saucy Dogの記念すべき『音博』初舞台となった。

| SET LIST
01. 東京
02. メトロノウム
03. 雷に打たれて
04. 現在を生きるのだ。
05. 怪物たちよ
06. 優しさに溢れた世界で
 
 
 
 

 
sumika

「僕には目標がありました。いつかくるりに呼ばれてみたい。今日は全身全霊でやります」。
これまでもくるり愛を公言してきた片岡健太(Vo&Gt)の夢が叶うsumikaの舞台が、ファイティングポーズをとり続けるバンドの姿勢を歌った「祝祭」で始まった。勇ましい表情で演奏する姿は常に挑み続け、ここまで辿り着いた気合いの表れだ。一転ハッピーチューン「Lovers」へと切り替わり、ようやく片岡にも笑顔が表れる。そして小川貴之(Key/Cho)が「京都音博、お手を拝借!」とハンドクラップを促すと、荒井智之(Dr/Cho)の軽快なドラミングも気持ちよさを加速させる「1.2.3..4.5.6」、さらにアップテンポな「ふっかつのじゅもん」で会場の温度をググッと上げるまで、文字通り“怒涛”の4曲。そしていつよりも今日、最高にかっこいいライブをして帰りたいと宣言した彼らのネクストソングとなったのは、夢へと突き進む力を歌った「センス・オブ・ワンダー」。この曲を歌い切ると大きな拍手が起こったことは記しておきたい。その後アイリッシュ音楽を取り入れ小気味よく踊る人が続出した「Lamp」、会場中から彼らへと歌声が届けられた「Starting Over」まで、グッと力のこもったsumikaの夢のステージだった。

| SET LIST
01. 祝祭
02. Lovers
03. 1.2.3..4.5.6
04. ふっかつのじゅもん
05. センス・オブ・ワンダー
06. Lamp
07. Starting Over
 
 
 
 

 
坂本真綾

歌手、声優、女優など多方面で活動し、その透明感のある歌声で日本のみならず世界中のファンから支持される坂本真綾が、『京都音博』に初出演。初っぱなのジャジーな「宇宙の記憶」から軽快なリズム上に舞うボーカルが最高に心地良く、「もし歌っているときにパラパラきたら全部私のせいです(笑)」と空模様をうかがうMCでも場を沸かせる。その後も、川谷絵音が作詞作曲を手掛けたきらめく「ユーランゴブレット」や、不穏なメロディがジェットコースターのように突き進む「逆光」と、名うてのミュージシャンを従え攻めのセットリストを披露したかと思えば、「SAVED.」「Remedy」とはかなくも優しい極上のミドルバラードを連発。人気アニメ『カードキャプターさくら』のオープニングテーマとして時代を彩った「プラチナ」では、満場のクラップが巻き起こる。ラストは、くるりの岸田繁が作・編曲を担当した「菫(すみれ)」を。「まさか同じステージに立てる日が来るとは夢にも思わなかった」と感無量の彼女と岸田の共演は、今年の『音博』の紛れもないハイライトとなった。

| SET LIST
01. 宇宙の記憶
02. ユーランゴブレット
03. 逆光
04. SAVED.
05. Remedy
06. プラチナ
07. 菫
 
 
 
 

 
Tigran Hamasyan “StandArt”

これぞ音楽の博覧会――。くるりが熱烈なファンだと公言し出演を果たしたのは、ジャズピアニスト/作曲家のティグラン・ハマシアン。ステージに現れてティグランの紹介を行った佐藤も「1人音博みたいな人ですよね。念願叶って彼の出演が実現しました」と誇らしげだ。関西では初のトリオ公演となった音博ステージは、その独創的な解釈も話題を呼んだアメリカン・スタンダードのカヴァー曲集『StandArt』を中心にした構成だ。1曲目となったのは、1944年にデイヴィッド・ラクシンが発表したジャズのスタンダード「Laura」。グランドピアノから繊細な音が流れ出した途端、周囲の空気がピシリと研ぎ澄まされた。頭を軽く揺らし鍵盤と対峙するティグランに対し、見守るオーディエンスは演奏に釘付けとなっている。そして1939年に公開されたミュージカルのための楽曲「I Didn't Know What Time It Was」が奏でられる頃には夜の帳が下り始める。披露されたのは4曲。グランドピアノの音色が先導し、トリオが生み出すうねりのような上質なグルーヴに身を委ねる、恐ろしく貴重な時間となった。

| SET LIST
※非公開
 
 
 
 


角野隼斗

初出演ぞろいの2日目の『京都音博』、トリ前はCateen(かてぃん)名義のYouTubeでも話題のピアニスト、角野隼斗だ。昨年の『FUJI ROCK FESTIVAL’22』でも観客をくぎ付けにしたショパンの「英雄ポロネーズ」をあいさつ代わりに奏で、「このステージに立てることをうれしく思っています。きっと正解なんてないので、踊るもよし、リラックスするもよし、自由に楽しんでください」と告げ、自らのオリジナル曲のゾーンへ。愛猫のために書いたという「大猫のワルツ」、きめ細やかかつダイナミックに鍵盤上を走る「胎動」と変幻自在に聴かせ、たゆたう調べに心奪われる「追憶」からの即興~バッハの大胆なリアレンジなど、いつ何が飛び出すか分からないパフォーマンスには一時も目が離せない。最後は角野が「大尊敬するミュージシャン、岸田繁さん!」と呼び込み、岸田も「お客さんぐらい楽しんでます(笑)。『音博』やってて良かった!」とほほ笑む。角野の好きな曲であるくるりの「JUBILEE」では豪華コラボが実現し、気品と情感溢れる旋律が『京都音博』にかつてない刺激と興奮をもたらした。

| SET LIST
01. ショパン:英雄ポロネーズ
02. 角野隼斗:大猫のワルツ
03. 角野隼斗:胎動
04. 角野隼斗:追憶
05. バッハ: パルティータ第2番 カプリッチョ(抜粋)
     バッハ: イタリア協奏曲 第3楽章(抜粋)
     ガーシュウィン(角野隼斗編曲): 10 levels of "I got rhythm"
06. くるり:JUBILEE
 
 
 
 

 
くるり

時刻は18時をまわり、初めての2デイズ開催となった『音博』2日目はついにトリを飾る、くるりへとバトンが渡された。岸田繁(Vo/G)と佐藤征史(B/Vo)、そして石若駿(Dr)、松本大樹(Gt)、野崎泰弘(Key)、加藤哉子(Cho)により、「琥珀色の街、上海蟹の朝」でラストステージは始まった。そしてそこにいた人々全員の、次は何の曲かという高まる期待に応えるかのように演奏されたのは「ブレーメン」。2006年にウィーンにてオーケストラを導入してレコーディングされた、アルバム「ワルツを踊れ」の代表曲が、この日はバンドのみのアレンジによりグッとソリッドな雰囲気を持って響いてくる。それに続いた「潮風のアリア」では、旅の情感を約7分にも及ぶ壮大なメロディとリズムで魅せるなど、くるりにしか奏でることのできない音の凄みをまざまざと感じさせてくれる。「ここでもっくんこと、森信行(Dr)をお迎えしたいと思います!」と岸田の呼び込みと共に、くるりオリジナルメンバーである森信行が登場。3人で制作が行われたニューアルバム『感覚は道標』から「In Your Life」、「California coconuts」、そしてツインドラムとなる7人編成で「世界はこのまま変わらない」を披露。ステージを眺めながら、くるりがどこまでも格好良く、見惚れるしかないと驚かされる。バンジョーの音が響き、演奏されたのは名曲「リバー」。曲のリズムに合わせて、周りから溢れる手拍子が、会場の隅から隅まで響き渡る幸福な景色を作り出していた。「初めて2日間やりましたが、音博っぽくなったのではないでしょうか(佐藤)」、「初の2日間で供給過剰なのか、胸がいっぱいです(岸田)」と笑った後のアンコール曲はもちろん全ての人が心待ちにしていたであろう「宿はなし」。2日間の壮大な音楽の博覧会は、あなたに何を残しただろうか。また来年もこの梅小路公園で、新しい音楽に出会えることを楽しみに。

| SET LIST
01. 琥珀色の街、上海蟹の朝
02. ブレーメン
03. 潮風のアリア
04. In Your Life
05. California coconuts
06. 世界はこのまま変わらない
07. リバー
EN. 宿はなし
 

 

 

Text:桃井麻依子(開会宣言、秦 基博、sumika、Tigran Hamasyan “StandArt”、くるり)
奥“ボウイ”昌史(Saucy Dog、坂本真綾、角野隼斗)
Photo:井上嘉和