DISC REVIEW eijun

この痛快さがエイプロの真骨頂であり新感覚のポップソング

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  • eijun「恋愛くたばれ同好会 (仮) (feat. さかな)」
  • 2022.9.21 RELEASE
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    作詞・作曲:eijun
    Vocal:さかな (https://twitter.com/sakana_tohno)
    Illustration&Movie:INPINE (https://twitter.com/INPINE_JP



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    SPECIAL INTERVIEW

     

    THE BACK HORNのギタリストとしてロックシーンで確たる存在感を放つ菅波栄純が、ポップスのコンポーザーとしてのソロワークを展開する「eijunプロジェクト」をスタートさせたのが2021年4月。前回のリリースからこのエイプロは2ndシーズンに突入しており、前作『ねたふりす (feat. さかな)』から「3部作」というコンセプトで楽曲が順にリリースされている。今作はその3部作の2作目にあたる楽曲。失恋の甘い痛みに浸っていた主人公の「りすちゃん」が、今回の『恋愛くたばれ同窓会 (仮) (feat. さかな)』でまさかの大暴走! 歌詞も歌唱もトラックも、やりたい放題に暴れまくる。この究極的に振り切れたポップスを、eijunは自ら『SASUKE』の装置のようだと喩えた。無理ゲーよろしく、めくるめくサウンドのトラップ、メロディのギミックを、さかなのボーカルが面白いようにクリアし駆け抜けげいく。この痛快さ、まさにエイプロの真骨頂であり新感覚のポップソングである。一体どのような経緯でこの「SASUKE曲」は生み落とされたのか。



     

    ──3部作の第二弾楽曲ということで、前回の『ねたふりす』では、失恋をしたりすちゃんの切ない心情が描かていましたが、今回の『恋愛くたばれ同好会 (仮)』は完全に反対側に振り切れましたね(笑)。この、プログレッシブとも言いたくなるような楽曲はどのように生まれてきたのでしょう。

    「これはそもそもディレクターさんの提案がきっかけになっていて。3部作のコンセプトとは関係なしに、『さかなさんの歌唱はすごくテクニカルだから、そのテクニックを強調した曲を聴いてみたい』と。それこそボカロじゃないと歌えないような曲でも、さかなさんなら歌えてしまうだろうというのがあって。その会話がきっかけで、自分としても難易度の高い曲を作ろうと。そういうテーマと3部作のストーリーをうまくつなげられないかと考えていたら、まず言葉数は多くなるだろうから、サウンド的にもネタをいっぱい入れられそうだなと思って。それなら真面目な曲よりも面白曲のほうがよさそうなので、それならりすちゃんがやさぐれて、嫉妬心とかネガティブな感情がダダ漏れの、面白おかしい展開にすれば合うんじゃないかなって」

     

    ──なるほど。さかなさんのテクニカルな一面にスポットを当てるというのが最初の入口で。どこか『てえてえてえ (feat. さかな)』を彷彿とさせるものがありますが、さらにいろいろな方向に展開していく確かに難しい曲ですよね。サビ以外の展開が全部違うというか、セクションごとにまったく違う要素が用意されてるみたいな。これを歌い切るのは相当凄いです。

    「ほんとですね。テレビ番組で『SASUKE』ってあるじゃないですか。普通の人じゃ絶対クリアできないアスレチックのセットがあって。あれを全クリしたみたいな達成感ですよね」

     

    ──ああ、まさに『SASUKE』という比喩はぴったりですね。ひとつクリアしたと思ったらさらに難易度の高いセクションが待っていたみたいな。

    「難易度の高いものといえばボカロ系楽曲なんですけど、ボカロ曲は情報量が多くて、ギュッと詰め込まれていて。動画を途中で止められないためのギミックが、ものすごい勢いで入っているんですよね。昔よく、映画の宣伝とかで『5分に1回爆笑シーンがあります』とか、『感動シーンが10分に1回あります』という煽り文句がありましたけど、ボカロの曲もそういう構成になっているものが多いなと思って。10秒に1回は『うわ!』って驚くような。それくらい詰め込んだ感じにしたかったんです」

     

    ──さかなさんの技量を極限まで引き出そうという曲作りは、eijunさんとしても極限までアウトプットしていくような制作だったのでは?

    「確かにそういうところはありましたね。いままで主に人間が歌唱する曲をやってきているので、生身の人間が歌える限界のスピードがどれくらいのものなのかとか、メロディの跳躍加減とかも、正直よくわからなかったんですよね。それは逆にエイプロを通じてわかってきたところで。これならギリギリ歌えるなとか、これくらいの音の幅だったら大丈夫だなっていう、生身の人間の限界を探りつつやってみて。でもさかなさんの場合はいままでも全部クリアされてきたので、一般的な限界はすでに超えてしまっていると思うんですけどね(笑)。今回はそうやって『SASUKE』の装置を作っていきました」

     

    ──1stシーズンで多様な楽曲にトライしてきた経験値が凝縮されているようなサウンドですよね。

    「一方で、1stシーズンではずっと“恋愛”を歌ってきたので、今回それをタイトルで裏切っているというか。『恋愛くたばれ』なんてことをエイプロが言ったら面白いのかなと思って。よくよく曲を聴けば、結局は『恋愛したい』と言ってるんですけどね(笑)。でも『恋愛くたばれ』と言いきることで、サウンドも歌詞もいろんな遊びを詰め込めたというところはありますね」

     

    ──草食系のかわいいキャラの女の子が「恋愛くたばれ」って言ってるからポップスとして成立するというところはりますね。歌詞は言葉遊び的な面白さもあって。

    「歌詞は『アンチ恋愛』に振り切ったことでテーマ的には書きやすくなりました。無茶なことも盛り込めるので、そういう意味ではあまり頭を悩ます部分はなかったんですよ。ただ部分部分でかなり高速なので、あまり複雑な韻を踏むと相当難しくなってしまうなっていうのはありましたね。“(仮)です”と歌うところとか、地味に難しいと思うんですよね。そんななかでもギリギリ韻を踏むのを意識するというか。そこはちょっと時間をかけたかもしれないですね」

     

    ──それにしても歌い出しから“恋愛はくそだね”っていうパワーワード出てきますからね(笑)。

    「そうそう(笑)。エイプロとしては一番言っちゃいけないワードから始めようかなと思って。ひどい言葉を使ってもポップに響かせるのは、自分に対する無茶振りでもあったんです。こんなひどい言葉をどうまとめあげるかは、自分に対する『SASUKE』だったと思います(笑)」

     

    ──その後の“ふぁっ…くしょん”もかなり確信的に(笑)。

    「そこは自分でもいい歌詞を思いついたなと(笑)。やっぱりアイデア勝負なところが自分の場合は大きくて。“ふぁっ…くしょん”もそうですけど、いろいろネタを思いついて、それをごちゃっと合わせていくのが得意、というか好きなんです。THE BACK HORNのときも、エイプロのような面白ネタではないですけど、このネタとこのネタを混ぜて1曲にしたい、みたいなことはよくやっているので」

     

    ──ラスト、スポークンワード的なセクションから、最後はセリフで締める。この流れも完全に予想外で。

    「そうですよね。スポークンとかセリフって歌に乗せる歌詞よりも、ギュッと言いたいことを詰められるんですよ。メロディの制約がないので、展開を見せたいときに助かるんです。この曲に関して言うと曲の尺的にもあまり長くはしたくなかったので、あのスポークンのところでちゃんと今回の物語を着地させたくて。『恋愛くたばれ』という大サビがあって、でもやっぱりやめたみたいな。そういうストーリーを、大サビ、スポークン、セリフの3展開で一気に見せたかったというのはありました」

     

    ──そうしたバラバラなネタたちをまとめあげて、学園もの、恋愛ものの「あるある」に落とし込むのが、まさにエイプロの妙味ですよね。

    「そう思います。エイプロは曲の設定自体が突飛なものが多いというか、『え、そうなる?』という展開が多いんですけど、『恋愛くたばれ同好会 (仮)』はその最たるものかもしれないです。たとえば『君を、想う。 (feat. RINA)』ではラーメンを食べにいく女子のシーンが出てくる──もちろんラーメンくらいは食べに行くだろうけど、ラブソングにそれが出てくることはあまりないと思うので。でもそういうわかりやすい日常の場面を入れると、リスナーは曲に取っつきやすくなると思うんですよね。だから今回も、授業中に手紙がまわってくるとか、そういうのは積極的に入れていこうと」

     

    ──その“授業中回ってくるメモはインターセプト”のところは、MVにその場面が出てきて。そこで描かれている手紙(メモ)の折り方が、まさに「これこれ」っていうものだったりして、これもまさに「あるある」。今回のMVはそういう細かいところも楽しめました。

    「あの手紙の折り方、いいですよね(笑)。今回もMVを担当するINPINEさんがイラストも描いてくれているんですけど、シーンごとに歌詞に出てくるモチーフを入れてくれていて。エイプロの曲は場面場面のネタがいっぱいあるので、そういうのを全部拾っていったほうがMVとして面白くできるかもっていう話はしていたんですよ。今回はそれができて、すごく楽しかったです。それはでも作曲と歌唱とMVと、全部チームワークで作らないと出せないものだから、今回それがすごく結実しているような気がしますね」

     

    ──そしてこの3部作、次回が最終章。この『恋愛くたばれ同好会 (仮)』を聴いて、りすちゃんの恋の結末はいよいよ予測がつかなくなったわけですが(笑)。

    「いやでも、必ずしも最後は大団円というパターンじゃないので(笑)。たぶん『え、そういう終わり方?』という感じだと思います。多少ネタバレ的に予告すると、初のデュエット作品になります」

     

    ──デュエット! それはまた新機軸ですね。

    「さらにネタバレですけど、りすちゃんが『寄りを戻そう』って元カレのとこに行くんです。でも結局また喧嘩になるっていう。そのやりとりがラップバトルみたいに展開していくっていう曲ですね」

     

    ──うわあ(笑)。それは完全に予想できない流れ。めちゃめちゃ面白そう!

    「痴話喧嘩の曲ですね。それで終わるっていう(笑)。まあ元サヤに戻ろうと思っても難しいよねっていうことでもあるし、あとはこれまでの2曲に伏線として仕込んであるものが回収されるようなところもあって、そこがちょっと強引なオチになってると思うので、それを楽しんでほしいです」

     

    ──楽しみです。それにしても、前作で恋の終わりを描いて、今回では「もう恋なんかしたくない」っていう気持ちを描いて、その共感性の高いテーマがこれだけ振り切れたポップスになるというのは、それこそがエイプロの魅力だなと。eijunさんは、エイプロを始めた当初からそれが自身の強みだと認識していました?

    「いや。それはほんと、やっていくなかで気づけたことで。ただ、無意識的な作家のエゴとして『これを入れるのはラブソングとしてどうなの?』っていうところを攻めていきたい、それが『作品としてどうなるのかを眺めたい』という感覚はずっとあるんですよね。聴く人にもそこをエンタメとして面白がってもらえるようなクオリティに持っていければ、エイプロとしての強みになるなって、最近は思っています」

     

    ──エイプロというものの解釈もどんどんアップデートされていっていると感じます。eijunさんのなかで「ポップス」というものの捉え方も変化してきていますか?

    「そうですね。やっぱり一概にも『ポップス』とは言えないものだなと思いますね。当初は『ポップスとはこういうものだ』って言ってやる、『オレが新しくそれを提示する』くらいのつもりで始めたんですけど、やっぱり一概には言えないもんだなあって。『ポップス』というひとつのジャンルはあるとしても、それはたとえば老舗のうなぎ屋さんがタレを継ぎ足して味を引き継いでいくようなものとはまったく違うじゃないですか。むしろ瞬間風速の積み重ねというか、気まぐれも気分もすごく入っているし。その時代時代で『世の中が暗かったから明るい曲が流行った』とか言われたりはしますけど、結局その瞬間になってみないとポップスの流れってわからないし、何が飛び抜けてヒットするかもわからない。それがポップスなんですよね。だから、『ポップス自体を新しく発明する』という考え方自体が実はズレてたのかなって、いまは思い始めてます。瞬間風速的にいま面白いと思うものを出せるかどうか、そういうものかなっていう考え方になってきていますね」

     

    ──なるほど、その瞬間風速的なものを捉えて表現していくっていうのは、eijunさんが前に言っていましたが、エイプロ2ndシーズンのテーマでもありますしね。
    普遍的に受け入れられるものを狙って作るということではなくて、自身の表現したいもの、感じたものを出していく。そういうポップスのほうが誠実だとも思います。

    「そう思います。ポップスって結局いろんな世代が聴くものですしね。聴き手の嗜好は想定しづらいものだとも思うので」

     

    ──そういうeijunさんの考え方も踏まえて次作がどんな曲になるのか、とても楽しみになりました。

    「また新しい展開を楽しみにしていてください」

     

    TEXT:杉浦美恵
     


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