DISC REVIEW Ryohu

「Circus」Special Interview




INTERVIEW



Ryohuというラッパーだからこそ──いや、Ryohuというラッパーでなければ創造できない音楽作品がある。2020年11月にリリースした1stアルバム『DEBUT』はまさにそういうものだった。これまで、東京を代表するヒップホップクルーであるKANDYTOWNの中心的なラッパー/ビートメイカーとして音楽的な支柱を支えると同時に、誰よりもボーダーレスな動きを見せながらラップシーンのみならずSuchmosやペトロールズ、Base Ball Bearといったバンドなど、さまざまなスタイルのアーティストたちとセッションし、完全独自な音楽人生の軌跡を紡いできた。Ryohuが30歳を迎えた年にその軌跡を1枚のアルバムに形象化したのが『DEBUT』だったのである。冨田恵一を筆頭に手練れのプロデューサー/ミュージシャンのサポートを得ながら、しかも客演なしでRyohuが一人でマイクを握り自らのバックグラウンドをどこまでもリアルにラップし、歌ったからこそ『DEBUT』は1stアルバムにしてひとつの集大成にも映る存在感と輝きを放っていた。
 

そして、2022年。前作から一転し、Ryohuは4月の“One Way feat.YONCE”を皮切りにコラボレーション楽曲をデジタルシングルとして5作連続でリリースしていった。YONCEに続くコラボアーティストは、KANDYTOWNの前身クルーでありBANKROLL時代からの盟友であるIO、これまで交流はなかったがRyohuがその声に惹かれオファーした佐藤千亜妃、Peterparker69としての活躍も目覚ましい新世代のオルタナティブラッパー/シンガー/プロデューサーのJeter、そして、2009年に現時点では最初で最後のアルバム『第一集』をリリースし、今や伝説のバンドとして語られるズットズレテルズのメンバーとして忘れがたき青春をともにしたOKAMOTO’Sのオカモトショウ。この多種多様なメンツを集められるのもまたRyohuというラッパーの求心力であり真髄であることは最早言うまでもないだろう。どの曲も独創的かつ刺激的なビートの上でRyofuと客演アーティストが今このタイミングでなければ描けなかったドラマを語り合っている。そして、5作連続リリースの先にたどり着いたのが、この2ndアルバム『Circus』である。


「『DEBUT』はまさに自分史を語るアルバムでした。今回は最初から客演を呼んで人と曲を作ることをたくさんやりたいと思っていて。前作で“The Moment”が最初にできたのと同じように、このアルバムを作るうえで最初に“One Way feat.YONCE”で走りだせたのは自分の中で『よし!』というモチベーションであり大きな一歩だったと思います。ただ、最終的に今作がコラボアルバムと捉えられるのではなくて、Ryohuの2ndアルバムにコレボレーション曲が多く存在しているというパッケージにしたかったんです。そういう意識を持ちつつアルバムを構成するシングル以外の曲を作っていきました」
 

アルバム曲には盟友のトライアングルを成しているAAAMYYYとTENDREを客演に迎えた、その実、初めてこの3人が1曲の中に集合した楽曲もありつつ、特筆すべきはやはりラストのM9「Thank You」だろう。冨田恵一プロデュース、クワイアのフィーリングを感じさせるビート、そしてRyohuがそのリリシズムを全開にしているラップという点においても『DEBUT』の象徴的な楽曲だった“The Moment”のアンサーとしても聴こえるし、この『Circus』というアルバムを総括するにふさわしい1曲になっている。
 

「ファンファーレ的な響きをする曲を作りたくて。冨田さんから送られてきたトラックを聴いて、これは間違いなくアルバムの最後の曲になるなと思いましたね。〈ありがとう〉って口に出して言うことの大事さはわかっているんですけど、曲の中でこの言葉を言えるようになったのは最近で。〈ありがとう〉って素晴らしい言葉じゃないですか。漢字で〈有難う〉って書いたときに『ああ、〈難〉が〈有る〉からありがとうって思えるのか』って思ったんです。自分自身のことを振り返ったときに、いろんな状況の中で他者と向き合いながら思うようにいかないことがあったとしても、すべてを含めて〈ありがとう〉と言える自分でいることが一番いいのかもしれないと思ったんです。たとえば自分が失敗したときにそれを誰かが〈大丈夫だよ〉って許してくれることにも〈ありがとう〉って思えるし、そうやって支えてくれる人たちから〈ありがとう〉って言われるよう生き方や活動をしていきたいと思う。そういう〈ありがとう〉の循環ってすごくいいなと思いながら、この曲のリリックを書きました」
 

このアルバムに『Circus』と名付けた理由について、Ryohuはこのように語る
 

「コロナ禍になる前に、ファッションウィークにパリに行って、パリコレでいろんなショーを観たんです。その一つで印象に残っているのが、UNDERCOVERがサーカス場を使って開催したショーで。サーカスを観たのがそのときが初めてだったんですけど、曲芸をするいろんなパフォーマーや動物が出てきて、ピエロが出てきて、座長が登場する。いつか俺が座長としていろんな客演アーティストが呼んで、いろんなカラーを持つ曲が連なるアルバムを作ったら面白いだろうなというイメージをそのときすでに思いついていたんです。つまり、このアルバムは『Circus』というタイトルを決めてから作り始めた。『DEBUT』もそうでしたね」
 

『DEBUT』と『Circus』を作り上げたことで、Ryohuは確実に新しいフェイズに立つだろう。もしかしたらそれは、ライブパフォーマンスのあり方も含めて、かつてないほどエンターテイメントと向き合うことなのかもしれない、と筆者思う


「自分史を語るのも、いろんな客演アーティストを呼ぶのもRyohuの二面性であるとするならば、その二つの要素をあたりまえのように表現していくのが僕にとって一番健康的なのかもしれないと思います。ライブをちゃんとエンターテイメントとして成立するショーにしていきたいという気持ちは俺の中にもあるし、まだ頭の中だけですけど、次に作っていく曲はそういうビジョンと向き合う内容になるんじゃないかと思ってます。もちろん、アートとしての音楽という部分はこれからも大事にするし、タレントみたいなことはできないけど、もう少しエンタメとしても成立する曲作りであり、ライブの演出であり、アーティスト、ラッパー、音楽家としての立ち位置を追求してみたいと思いますね」

 

Interview&Text:三宅正一

 




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