DISC REVIEW eijun

自由度の高いポップスの追求と3部作のコンセプト

自由度の高いポップスの追求と3部作のコンセプトの画像
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作詞・作曲:eijun
Vocal:さかな (https://twitter.com/sakana_tohno)
Illustration&Movie:INPINE (https://twitter.com/INPINE_JP



MUSIC VIDEO

 

 




SPECIAL INTERVIEW

 

THE BACK HORNのギタリストとして活動する菅波栄純は、2021年4月からeijun名義でソロ活動をスタートさせ、独自のポップを追求するプロジェクトをスタートさせている。2022年7月にリリースした13作目の楽曲『Rondo (feat. さかな)』をもって、eijunプロジェクトは1stシーズンを締めくくった。そして2ndシーズンに突入し、eijunはさらに自由度高くポップスの可能性を追求していくモードに入ったようだ。楽曲単位で様々なボーカリストやクリエイターを起用しながら、多彩なJ-POPへのアプローチを試みた1stシーズンを経て、2ndシーズンではまず、今作『ねたふりす (feat. さかな)』から連なる「3部作」というコンセプトを掲げている。ここから続く3曲で「りすちゃん」という主人公の恋愛物語が展開し、そのすべての楽曲でさかながボーカルをとる。3部作とはいえ、今回の『ねたふりす』は単曲での完成度にも妥協がない。eijunらしいフリーダムなビートの展開、そしてさかなの透明感のある歌声。この掛け合わせの妙が生んだ独自のバラードは、エイプロならではのグッドバランスで響く。この最新楽曲『ねたふりす』について、また、3部作というコンセプトについて、eijunにたっぷり語ってもらった。



 

──2ndシーズン1曲目ですね。夏の切ないラブソングで、メロディは切ないバラードでありながらビートがとてもユニークで、速い4つ打ちだったり、様々な感情を表現するようにめまぐるしく展開していくのが印象的です。で、今回の曲と次曲、次々曲とで、「りすちゃん」という女の子を主人公にした3部作になるとのことで、まずその構想はどのように生まれてきたのでしょうか。

「前作の『Rondo (feat. さかな)』で1stシーズンが完結して、2ndシーズンに向けての構想を練っている時に、これまでは作品ごとにテイストを変えてリリースしてきたんですけど、一度、デザインやイラストのイメージを固定して、よりエイプロっぽさを色濃く表現してみようと思って。では、テイストを揃えていくんだったら、リリースする楽曲を連作の続きものにして、曲の世界観もつながっているものを作ったら面白いんじゃないかという話になったんですよね」

 

──3部作となると、ストーリー性や主人公のキャラクター設定みたいなところが重要になると思うんですが、今回の「りすちゃん」はどんなふうに生まれてきたんですか?

「この『ねたふりす』自体は2ndシーズンの1曲目として、3部作にしようって決める前から作り始めていた曲なので、1stシーズンの『あいしてぬ (feat. さかな)』とも符合するような、ひらがな5文字のちょっと不思議な言葉で、ハッシュタグで他の人が使ってないものっていうところから考えた言葉なんですね。『りすちゃん』のキャラ設定も、そういう仕様が決まってから、『寝たふりをする、顔がりすっぽい女の子』を主人公にしょうって、言ってみれば全部逆算的に生まれてきたもので。それで今回はいつもMVを手がけてくれてるINPINEさんがイラストも描いてくれていて。女の子の頭にシマシマが入ってシマリスっぽい雰囲気だったり、髪の毛もりすのしっぽみたいな巻き毛にしていたり。そういう遊び心を入れてくれてます」

 

──まず『ねたふりす』という言葉が先にあって、そこからすべてのイメージが膨らんで、この主人公で3部作にしちゃえ、みたいな。ある意味ノリというか。

「完全にノリですね(笑)。逆にTHE BACK HORNでは、何かがノリで決まっていくことってほとんどないんですよ。考えて作り込んですべてが決まっていくっていう順番でやってるんですけど、そこはエイプロならではというか、雑談的に何かが決まっていくのも面白くて。みんなそれぞれのセクションのプロフェッショナルだから、後付けでうまいことパッケージにして見せていくみたいな。そこがそれぞれ腕の見せどころというか」

 

──今回は、まさにチームで作り上げた作品だなと感じます。MVもイラストも、歌詞も、サウンドも、もちろん歌声も、すべてが淡いブルーの世界観で統一されていると感じられる。そのなかでも、さかなさんのボーカルの透明感が非常にそのイメージを表現していますよね。

「ここから始まる3部作は、すべてさかなさんの歌唱になるんですけど、今回の『ねたふりす』のメロディや透明感は、自分のなかにあるさかなさんのイメージのど真ん中というか。かわいい声もさかなさんの魅力なんですけど、それはさかなさんのテクニックというか、さかなさんのワザであって、本来的には今回のような透明感のある、聴く人を選ばない美しい声を持っている方なんですね。それが今回の歌メロで生かされていると思います」

 

──MVの世界観も曲にぴったりで、INPINEさんとeijunさんとで相当濃いブレストがあったのではと推察するんですが。

「そうなんですよ。これが3部作になると決まる前から、2ndシーズンは統一感を出していくという話をしていて。そのなかでどういう色調、色合いでいこうかって話にもなって。それでちょっとレトロみがある感じがいいという話になり、ヴィヴィッドな感じというよりは、やわらかい色合い。そういうイメージを共有しながら作り上げていきました」

 

──歌詞もイメージ的にしっかり景色やその色合いが目に浮かぶように書かれています。サイダーのイメージとか、海で“ぐわーっ”とか、“ぶわーっ”みたいな。言葉として韻を踏むというより、情景の色調がずっとシンクロしていくみたいな。

「2ndシーズンのスタートは『ねたふりす』からの3部作と言いながら、1stシーズンで得た技術や知識やチームワークを存分に発揮する3部作という意味もあったので。あと、失恋っていうテーマとかJ-POP的なバラードの要素もふんだんに入ってるんですけど、アレンジや曲の構成、歌詞でとりあげるシチュエーションなどがユニークな感じになっていて。」

 

──以前eijunさんが言っていたとおり、2ndシーズンはゼロから新しいものを生み出すターンに入ってるんですね。

「まさにそうですね。それと、1stシーズンラストの『Rondo』を聴いていいなって思ってくれた人に、次のシーズンの始まりではぐっとBPMを上げた曲も聴いてもらいたいっていうのと、でも『Rondo』が好きだという人に引き続きいいなと思ってもらうためにも、J-POPのバラードとしての雰囲気も残しておきたくて。バラードなんですが、ビートは倍速で、BPM200くらいの4つ打ちで。そういう狙いはありました」

 

──ほかにサウンド的な狙いとしては?

「バラードって、だいたいじわじわ始まるじゃないですか。自分たちがバンドで作ってきたバラードも、じわじわ始まりなんですけど、やっぱりそれが気持ちいいんですよね。『ねたふりす』でもビートがずっと鳴ってない場所があって、でもサビでピークが来て盛り上がるっていうふうにはしたいと思っていて。だから頭のほうではビートをフィルターでモコモコさせて弱く鳴らして、それでフワーっと出てきたと思ったらまた弱くなって、サビでバンと出る、みたいな。よくよく考えたらこれ、EDMだなって(笑)。無意識にEDMをやってましたね、結果的に」

 

──ああ。ビートの展開だけを追っていくと確かにそうかも。そこにバラードとしての歌が乗るっていうのが、eijunさんらしい。

「自分としては、アヴィーチーのほんとの初期、1stアルバム『トゥルー』の頃の、ポップス色が強かったEDMに結果として近いものになったなと。そう感じる人がいるかどうかはわからないんですけど、たまたまそうなったっていうのが自分的に面白くて。バラードと速いビートの相反した要素を合わせるという腕力みたいなものが、1stシーズンを終えた今、すごくついている気がするんですよ。今までだったら『こんなことできんのかな?』って諦めてたアイデアだと思うんですけど」

 

──リリースしてきたすべての楽曲でリミックスも公開してきたっていうことも、今この楽曲に結実しているなと感じます。ビートの使い方がすごく自由で遊び心に溢れているので。それでいてバラードとしての世界観も維持できているという。

「それを成立させられるアイデアとか瞬発力みたいなものが、力としてついてきたんだなあっていうことをオレもしみじみ感じながらやっています。たとえば曲の頭で、今からバラードが始まるぞって感じさせるイントロが入ってるじゃないですか。でもあの音色はあそこでしか出てこなくて。そういうのをさらっとできるようになってるんだなあって。そしてそれを雑に感じさせないというか」

 

──『ねたふりす』の次の楽曲がとても楽しみになりました。

「この3部作のなかではおそらく『ねたふりす』が一番ドラマチック、かつ、一番長い曲になると思います。3部作と聞くと、なんとなく最後に向かってどんどんドラマチックになっていくイメージがありますよね。最後はオペラのように壮大になって尺も8分くらいあるような。もしTHE BACK HORNでコンセプトアルバムをやるとしたら、そういう方向性を考えると思うんですよ。でもエイプロ的にモダンな考え方で捉えると、必ずしもそうではなくて、逆に後半に向かって曲が短くなっていくっていう(笑)。過剰にドラマチックを演出しないのが、この3部作のコンセプトでもありますね。もちろん1曲1曲はドラマチックだったりするんですけど」

 

──それにしても、さかなさんの歌声の透明感。この曲にほんとにぴったりで。

「『ねたふりす』はエイプロ史上、歌の音域が一番広くて。上ハモまで入れると、とんでもない広さなんですよ。楽曲提供でこの音域のものを出したら『これはダメ』って言われるレベル。でもさかなさんは、これにも増してまだ広い音域を持っているという、もう意味わかんない領域なんですよ(笑)。だからこの曲、さかなさんの技術をもってしないと成立しないんです。そういう必然性もありました。天性の声の質感や培ってきた技術で取り組んでもらわないと成立しなかった曲。それが最終的にはさーっと聴ける仕上がりになっているのもすごいんですけど」

 

──「りすちゃん」はこのあとどうなっていくんですか?

「最初はほんとに『ねたふりす』という言葉を言いたいがために生まれたキャラなんですけど、もう今は愛着があって。eijunプロジェクトの曲に出てくるラブコメ系のキャラは、なんとなくドタバタしてるか、もうちょっと現実的な設定の人か、どちらかだったと思うんです。『りすちゃん』はそれが混ざってる感じ。基本はわちゃわちゃしてるんだけど、意外と現実的な感覚もあって、でもぶっとんでもいる。『ねたふりす』からの3曲では、それくらいテイストが違うものになる予定です。結果的に多面的なキャラクターができあがりましたね。3部作ではそのへんも楽しんでもらえたら嬉しいです」

 

──寝たふりをする女の子って、ある意味あざといわけですよね。でも「りすちゃん」は嫌なあざとさじゃなくて、女性でも共感できるかわいさがある。その描き方がeijunさんならではだなと思うんですよ。

「嬉しいです。3部作になるので、まずこの曲で『りすちゃん』に感情移入してほしいというのがあって。なんとなく親近感を持ってもらえたりするといいなと思って。というのも、ちょっと今後の展開がトンデモなので、ここで感情移入しておいてほしいんですよね(笑)。今まで、意識して自分の理想像みたいなものを主人公に押し付けないようにしてきたんですけど、どうしても自分がかわいいと思うキャラクターに寄せていきたいというせめぎ合いがずっとありまして。『りすちゃん』は、そのバランスがうまく取れたなと自分でも思えるんです」

 

──リアルとファンタジーのちょうどよい着地点というか。それもやはり1stシーズンで様々な女性を主人公にして書いてきたからでは?

「まさにそうなんですよね。1stシーズンでいろんな曲を書いて、このインタビューでもそうですけど、SNSでたくさんのフィードバックを得るわけじゃないですか。そういうフィードバックも自分の筋力になっていって、冷静な自分とテンションを上げて書いている自分とで、バランスが取れるようになってきたんだなと思います」

 

──次の曲で「りすちゃん」がどうなるのか、とても楽しみですが、ちょっとどう展開するのか、想像つかない感じもいいですね。

「楽しみにしていてください(笑)。この3部作を楽しんでもらいたいですね」

 

 

 

TEXT:杉浦美恵
 


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