DISC REVIEW eijun

悲しさや儚さを真正面から表現した珠玉のバラード曲

悲しさや儚さを真正面から表現した珠玉のバラード曲の画像
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きっと約束を破るだろう (feat. yucco)   


 

 CREDIT  

作詞・作曲:eijun
Vocal:yucco 
Illustration:水華ろに(https://twitter.com/i_62sic
Movie:INPINE(https://twitter.com/INPINE_JP

 


 


SPECIAL INTERVIEW

 

菅波栄純(THE BACK HORN)のソロワークスであるeijunプロジェクト(#エイプロ)は今年4月にスタートし、毎月コンスタントに多様なポップミュージックを制作・リリースし続けてきた。予定外にリリースするいわゆる「セカンドライン」の楽曲も含めると、今回で10作目。2021年のラストを締めくくるのは、『きっと約束を破るだろう (feat. yucco)』という、エイプロとしては初の、悲しさや儚さを真正面から表現した珠玉のバラード曲である。抽象的な表現や衒いを排した一編の小説のようなストーリーが、エモなサウンドと切なさを極めた歌声とで表現され、物語への没入を誘う。今回はこの楽曲がどのようにできあがっていったのか、そして、eijunの取り組みは今どのような進化の時を迎えているのか、本人に振り返ってもらった。


 

──12月22日リリースの『きっと約束を破るだろう』は、悲しみとか切なさとか儚さにストレートに向き合ったバラード曲。ここまでまっすぐに切なさを表現し切った曲も初ですね。

「初です。エイプロの人気曲には2つの傾向があって。1つは『あいしてぬ(feat.さかな)』や『てえてえてえ (feat. さかな)』のようなポップな曲で。もう1つは『君を、想う。 (feat. RINA)』などの切ない曲。前に、切なさとか喪失感を表現した音楽を作るのが好きという話をしたと思うんですけど、それをよりドラマチックに表現してみようと思ったのが今回の曲です。『君を、想う。』は、歌詞の中にラーメン屋のくだりがあったり、ある種のズラしを設定して作ったんですよね。でも『きっと約束を〜』は、このまま青春映画みたいに終わってもいいような仕上がりにしたというか」

 

──「約束を破る」ということの意味が、後半で「そういうことだったのか」と明らかになって、物語が着地するというのも、楽曲としての聴き応えにつながっているように思います。

「THE BACK HORNで住野よるさんと『この気持ちもいつか忘れる』(2020年)でコラボレーションさせてもらった時に、モダンな小説のプロットみたいなものを間近で勉強させてもらった経験が自分のなかでは大きくかったんです。小説だけじゃなくて音楽も、タイトルから始まって、どういう伏線があって、どう回収されるかっていうのは、意外とみんな着目している部分だなと思って。短編小説風の音楽ジャンルというものも根付いてきていますけど、今回の曲はそういう曲です。タイトルから入ると、『これはどういう物語なんだろう?』と思うだろうし、序盤は出会いから話がスタートするので恋愛の歌なんだなという認識から、徐々に『あれ?』という気持ちになって、このタイトルに向かっていくっていう感じですね」

 

──そうなんですよ。最初にタイトルを見た時は、約束を破るのは相手のほうだと想像していて。タイトルの真意が後半でようやく理解できるという、ほんとにひとつの小説のような構成です。MVもその展開通りに作られていますよね。

「今回は映像ディレクターのINPINEくんの提案で、水華ろにさんに何シーンもイラストを描いてもらっているので、病室のシーンとか具体的な描写もあるんですけど、MVでそこまで描いているというのもエイプロでは初で。『君を、想う。』の時は少し抽象的にする手法をとったんですけど、今回はストレートにいこうと」

 

──イラストの「泣き顔」も直球で訴えかけてきますね。

「オレもINPINEくんも感受性が敏感なほうなので(笑)、切ないものに弱いというか、自分でやっててもダメージを受けがちなんですけど、これは唇を噛み締めてでも、思い切り泣き顔にしないとダメだ、MVでも病室のシーンを描かないとダメだという話をして。自分にムチを打ちながら(笑)。オレはこの表情が好きですね。エイプロの楽曲で喪失感を表現する時には、『君を、想う。』もそうなんですけど、“悲しみを乗り越えなきゃダメでしょ”ということは一切言わないスタイルなんですよね。端から見たら、今回の主人公の約束の破り方っていうのは、言い方も悪いですけどある意味不毛で、そのまま人生を歩んでいたら幸せにはなれないっていうような道を、この瞬間は選んでいるわけですよ。でも、そういうところこそをエイプロでは描きたいというか。それでオッケーとは言わないんですけど、それをそのまま描写したいのがエイプロなんです」

 

──そういう曲に対する説明というか、想いみたいなことってイラストレーターさんと共有したりするんですか?

「INPINEくんがかなり細かく指示を出してくれてると思います。メガネとか髪の色とか色彩のこともそうだし、表情のことも。オレからINPINEくんにはそんなに言わないんですよ。でもこの曲の時は、主人公がメガネをかけるかどうかで議論はありました(笑)。eijunプロジェクトの曲のヒロインって、だいたいわちゃわちゃしてドジっていうパターンなんですけど、今回はもう少し落ち着いていて、リアルな女性に近い感じをイメージしていたので。オレとしては『クラスの中で言えば、不良でもなく、かと言ってすごく真面目でもない感じでメガネをかけてる子』というイメージなんだよねっていう話をして。わりとエイプロのほかの曲に比べて、この曲ではリアルな人物像を設定している感じはありますね」

 

──そのメガネがMVではすごく効いてますよね。フィクションとリアルの境界みたいなところで、メガネがひとつのフィルターとして使われている。

「まさにまさに。INPINEくんも、『ちょっとメガネ活かしておきました』って言ってた(笑)」

 

──そしてボーカルも、今回yuccoさんの声が、ほんとにまっすぐに「切なさ」を表現しています。

「いやもう本当に切なくて、作った自分が聴いていても、後半は特にグッときますね。病室のシーンあたりから切なすぎて。yuccoちゃんとはもともと知り合いだったんですけど、以前からいいボーカリストだと思っていて、今回お願いしました。この曲の元となったデモは、もう少しふわっとした仮歌詞だったんですけど、この歌詞ができあがった時には、彼女の声がいいなあってイメージが浮かんでいましたね」

 

──トラックは、今回はシンセベースの音が印象的で、でもギターはすごくエモーショナルでフリーキー。その音像の在り方が、ラストに向かうにつれて、徐々に不思議とまとまっていくニュアンスもあって。

「確かに曲の軸になってるのは打ち込みのドラムとシンベで。ウワモノも少し世界が揺れるというか、音像的に壊してるところもいっぱいあって、そのバランスでできてるトラックなんですけど、もしかしたら、リミックスバージョンのほうがシンセポップ風でわかりやすいのかも(笑)。原曲はもともとは自分で何年か前に作ったのをそのまま使ってるところもあるんですよ。今は100%打ち込みで表現できるようになってますけど、当時はまだそれができなくて、ギターで作ったものに打ち込みの音を足していく感じで作っていたんですよね。だから最初はギターサウンドにベースとかドラムっぽい音を入れてみて、そこから差し替えてったんじゃないかな。当時としては冒険して打ち込みのドラムにしてみよう、ベースはシンベにしてみよう、ギターにエフェクトかけて壊してみようって、試行錯誤した結果のサウンドになっている気がします」

 

──そのハイブリッド感が、物語性とリアル感を良いバランスで表現している感じもありますし。

「まさに過渡期というか、今は自分のシステム内では、生でも打ち込みでもなんでもいけますという感じになってますけど、その移行期でした。ちょうどその時期に作っていたんですよね。だから、今自分で聴いても結構面白い音像だなって思います」

 

──ギターサウンドは生っぽいし、ドラムも打ち込みとは言え、生音っぽい感触の音になっていますよね。

「そうですね。バンドサウンドっぽいフィルとかもありますね」

 

──リミックスのほうも聴きましたが、今回はこれまでのリミックスのあり方とちょっとベクトルが違う感じがしますね。より歌が際立つ音像になってるのが、このリミックスのほうで。

「そうですね。リミックスのほうがビートもすっきりしていて、洗練された音像になっています。どっちを好みに思うかは人それぞれですが。原曲に対してのリミックスというより、今回は2つの別のアレンジが存在する感じだと自分でも思いました。このリミックスでは4つ打ちになってるじゃないですか。エイプロをやる前の自分だったら、バラードを4つ打ちにする発想ってなかったと思うんですよ。4つ打ちにしたらダンサブルになるので、バラード感を削いでしまうんじゃないかっていう先入観があって。でも『君を、想う。』の時も、4つ打ちにしたら予想以上に切なくなったと思ったし、聴く人も4つ打ちだからダンサブルになったと感じた人はあまりいなかったみたいで。そういうのもあって、自分の中でアレンジと曲の合わせ具合がブラッシュアップされてアップデートされてる実感が最近はあるんですよ。よくよく考えたら、洋楽でも、世界的なチャートのバラードはこういうアレンジになっていたりして。紆余曲折を経て、気づけば自分もその流れと合流していたというか。以前なら、ドラムをこれだけ前に出すこともなかっただろうし、歌を中心にしたいという気持ちから、もっとストリングスを入れるとか、ザ・バラードなアレンジにしようとしたんじゃないかな」

 

──2021年は、この曲で締め括りという感じですが、今年はこれを含め、全10曲をエイプロでリリースしました。しかもリミックスもその都度配信するというハイペースかつコンスタントな制作が4月からずっと続いていたわけですよね。

「でも、全然大変ではなかったんですよ」

 

──毎月eijunさんにインタビューしてますけど、eijunさんから「今回は大変でした」とか「しんどかったです」みたいな話は1回も聞かなかったですね(笑)。

「いやあ、楽しかったんですよね。このエイプロの体制というのは自分に集権してもらえてるところがあって。スタッフと話し合いながらこのスピード感でやるには、いちいちみんなのハンコをもらって回ってたら絶対間に合わないんですよ。途中で誰かのハンコ待ちみたいな時間が、普通だったらどんな世界にもあると思うんですけど、それがエイプロではゼロなんで。その分、時間を効率的にっていうと事務的な言い方ですけど、他のやるべきことと同時進行で進めていけるっていうのがありがたくて。もう『eijunが全部決めていいよ』って言ってくれるので。スタッフもかなり度胸が据わってるなって思います(笑)。SNSの投稿ひとつとっても全部任せてもらえているのは、ほんとありがたいですね」

 

──今年はエイプロ曲のほかに、様々な提供曲の制作もありましたしね。

「そうですね。ほんと『あいしてぬ』のような感じお願いしますとか、そういうオファーもありましたし。MVも作らせてもらっているのも大きくて、そこでリファレンスしてもらえているというのもありますね。あとリミックスを出しているというのも大きくて、『こっちのリミックス寄りにしてほしい』とか、直接的な発注をいただいたりします」

 

──あらためてエイプロの取り組みは、eijunさんのソングライター、プロデューサーとしての音楽性やスキルを、日々更新して見せていくカタログのようなものだなと思いますね。

「そうそう。最初のインタビューで『見せる収納』って言ってましたよね。おそらくそれがほんとに機能し始めてる。このプロジェクトも実際にやり始めてみないとわからないところが多分にあったんですけど、ここ数ヶ月でスタッフとの連携を含め、かなり落ち着いてきました。ほんと、自由に制作させてもらってますね。」

 

TEXT:杉浦美恵


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