DISC REVIEW 藤巻亮太

人と自然の豊かな関係を描くメッセージソング

まほろば

マンドリン、アコギ、ストリングスなどの響きを活かした有機的なサウンド、大らかな解放感を備えたメロディライン、そして、“あなたがいる場所こそが素晴らしい”という思いを刻んだ歌詞。「まほろば」は、まさにエバーグリーンと呼ぶにふさわしい楽曲だ。

長野県大町市を訪れ、豊潤な自然や美味しい水に触れて制作された「まほろば」。根底にあるのは、人にとって、もっとも大切なものは何か?という普遍的なテーマだ。コロナ禍によって大きく変貌してしまった社会のなかで、人々は悲しみや葛藤を抱えながら生きている。そんな時代と向き合いながら藤巻は、この楽曲を通し、自然の一部として暮らすことの意義、そして、明日へ向かうための前向きな力を朗らかに響かせているのだと思う。




OFFICIAL INTERVIEW

 

―――藤巻亮太から新曲「まほろば」が届けられた。「サントリー天然水」第4水源「北アルプス」のデビューを記念して制作されたこの曲は、ノスタルジックな雰囲気をたたえたメロディ、そして、日本の古き良き風景と“あなたのいる場所がいちばん素晴らしい”という思いが交差する歌詞が心に残る楽曲に仕上がっている。「まほろば」を作るにあたって藤巻は、北アルプスの水源がある長野県大町市を訪れたという。

「自然が豊かで、もちろん水も美味しくて。大町市を訪問したことで、人の暮らしは自然に深く根付いているんだなと改めて感じました。水に恵まれていることのありがたさだったり、以前から気になっている環境の問題だったり。大町市の景色や感じ取ったことを、僕自身の思いと重ねながら作ったのが、『まほろば』ですね」

 

―――「まほろば」のなかで藤巻は、<柔らかな雨に/育まれ土と/川とともに/生きよう>と歌う。そこに込められているのは、自然とつながることの大切さだ。利便性や効率ばかりが優先される現代において、人々は自然とのつながりを感じづらくなっている。この大変な時代を少しでも健やかに生きるためには、水や雨、土、太陽などの自然との結びつきを実感することが必要ではないかーーそう、「まほろば」は現代人にとって、もっとも大事なメッセージが宿っているのだと思う。

「“自然がよくて、都会がダメ”ということではないし、過酷な自然環境をマネージメントしてきたのが人類の歴史だけど、人工物だけで生きていけるのか?といえば、そうではないと思うんです。人間も自然の一部だし、緑や水が豊かな場所にいくと、リフレッシュできる。そういう“生きている実感”を曲に落とし込めないかなと思っていました」

 

―――「まほろば」とは、“素晴らしい場所”“住みやすい場所”を意味する古語。この楽曲の最後にある<あなたがいる場所が/まほろば>という歌詞は、すべての聴き手を肯定する、温かくて前向きなメッセージが刻まれている。

「“まほろば”は古事記にも出てくる古い言葉で、奈良を旅したときに知ったんです。曲のタイトルを“まほろば”にしたのは……今って、よく“分断”ということが言われますよね。いろいろな考え方や文脈があるなかで、立場の違いによって隔てられてしまうのは悲しいことだし、心が疲れてしまう。そういう状況のなかで、“あなたがいる場所が、まほろば”と伝えることも音楽の役割なのかなと。一杯の美味しい水で落ち着きを取り戻せるように、“この場所がまほろば”と思えれば、少しは心が緩むんじゃないかなって」

 

―――カントリーミュージックの素朴な手触りを現代的なポップチューンに結びつけたサウンドメイクも、「まほろば」の魅力だ。軸になっているのは、この曲のレコーディングのために練習したというマンドリンの響き。編曲に参加している曽我淳一(Syn)をはじめ、御供信弘(Ba)、石若駿(Dr)といった気鋭のミュージシャンたちの演奏も素晴らしい。

「サウンドに関しても、大町市の雰囲気を感じたことが大きくて。懐かしさや温かさを音として表現したいなと思ったときに、辿り着いたのがマンドリンだったんですよね。ちゃんと弾いたことがなかったら1から練習したんですが、マンドリンの音によって引き出された言葉もあるし、いい選択だったと思います。一方で、“ただ懐かしいだけの曲にしたくない”という気持ちもあったんです。アレンジを手伝ってくれた曽我くん、ミュージシャンのみなさんの演奏のおかげもあって、ポップな曲になったと思います」

 

―――中島美嘉とのコラボ曲「真冬のハーモニー」(2020年11月)、川嶋あいとの共作による「どうにか今日まで生きてきたfeat.藤巻亮太」(2021年3月)、そして、「まほろば」と豊かな音楽性をたたえた楽曲を発表し続けている藤巻亮太は、現在、次作アルバムの制作に取り掛かっているという。コロナ禍においても、真摯に音楽と向き合い続けている藤巻。根底にあるのは、“曲を書きたい”“歌いたい”というシンプルな動機だ。

「突き詰めて考えると、結局、“やりたいからやってる”以外の理由がないんですよ(笑)。求められることに応えたり、コンセプトを決めて作るのも好きですけど、日々感じていることを歌にしたいと思ってます。その先にきっと、次のアルバムが見えてくるんじゃないかなと」

 

Text:森朋之

 

 CREDIT  

藤巻亮太:Vocal, Chorus, Electric Guitar, Mandolin
曽我淳一:Synthesizer
御供信弘:Electric Bass
石若 駿:Drums
銘苅麻野:Vn
三國茉莉:Vn
河村 泉:Vla

Recorded &Mixed by 桑野貴充(アウトバウト)
Recorded at studio JIVE