DISC REVIEW eijun

「今」の時代性を捉えた作家としてのソロプロジェクトが始動!

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あいしてぬ(feat. さかな) 

 

 CREDIT 

作詞・作曲:eijun
歌:さかな (https://twitter.com/sakana_tohno)
ベース:浩太郎 (https://twitter.com/B_bar_tetra)
絵:柳すえ (https://www.instagram.com/yanagisue)
映像:INPINE (https://twitter.com/INPINE_JP)

 



SPECIAL INTERVIEW


THE BACK HORNのギタリストとして数多のエモーショナルな名曲を生み出してきた菅波栄純のソロプロジェクトがスタートした。そのeijun名義での楽曲『あいしてぬ(feat.さかな)』は、驚くほどまっすぐ「ポップ」に向き合ったものであった。普遍的な魅力を放つJ-POPの追求というテーマはもちろん根底にあるにせよ、作詞やサウンドの方法論、楽曲のあり方そのものは真っ向から「今」の時代性を捉えていて、むしろ現代のポップスを積極的にアップデートしていく方向に進んでいる、その思考は実に興味深い。今回、菅波栄純はなぜこのソロプロジェクトを始動させたのか。そしてeijunとして日本のポップシーンで何を表現していこうと企んでいるのか。じっくりと話を聞いた。




 

──これまでも他のアーティストに楽曲提供をしたり、バンド以外での活動はされてきましたが、今回eijun名義で、ソロでプロデュースワークのプロジェクトをスタートさせたのは、どういうきっかけからですか?

「バンドを続けていく中で、そこでのリスナーとの繋がり方というのはすごく人間的に濃い感じがあって。ファンと良い関係を築いていくために、どういう楽曲を作っていくかということは今までもしっかり向き合ってきたし、これからも続けていくんですけど、それも含めて、自分の人生において『曲を作る』っていう行為がすごく大きなウエイトを占めていることに改めて気づいたんですよ。作詞・作曲するために生きているようなもので、それがないと生きている理由もないなと思うくらい偏った人生なんですけど(笑)。30歳も過ぎれば、そんな気持ちも少しは落ち着いてくるのかな、もうちょい緩やかになってくるのかと思ってたんですけど、逆に作曲したい欲がどんどん高まっていき、40歳を超えた今、過去イチで『作曲したい欲』が高まっていて。バンドの曲を作りたいっていうのはもちろん変わらずありながら、単純に曲数として、もっとたくさん作って発信して、フィードバックを得たいという気持ちが大きくなってきました。そこで新しくプロジェクトをスタートさせて、幅広く楽曲を発表できる場所を作ろうという感じです」

 

──バンドのために作る曲以外のものもどんどん生まれてきてしまうから、それを発信する場所も必要だったという感じですか?

「それはありますね。これまでもたくさん楽曲提供の話をいただいたりして作っていく中で、もっともっとポップなものにもチャレンジしていきたいという気持ちが高まってきているのは確かです」

 

──様々なポップを表現するために、楽曲ごとに違うボーカリストをフィーチャーして、曲を作り上げていくというイメージでスタートしたんですか?

「そうですね。俺は楽曲を作るということはコミュニケーションの媒体を作るということだと思っているんです。作詞・作曲をして曲を作りたい欲が高まっていると言いましたが、それがなぜなのか、自分でもその答えがわからないまま、これまで活動をしてきたんですよね。でも、THE BACK HORNで『あなたが待ってる』を宇多田ヒカルさんと共同で作り上げた時、バンドメンバーとは別の人が入ってくると、そこに新しいコミュニケーションが生まれて、自分たちだけでは見られなかった景色や、たどりつけなかった音像にたどり着くことができることに気づきました。その経験はやはりすごく感動的だったんです。それは自分の曲をバンドに持っていった時に、こんなにかっこよくなるのかっていう感動とも同じなんですけど、他のアーティストが入るとさらに違う広がりがあって。あと、自分のメロディや歌詞を女性ボーカリストに歌ってもらうというチャレンジを、突き詰めたいという思いもありました」

 

──なぜ女性ボーカルの楽曲を作っていきたいというモードになったんでしょう。

「すごく中二病的な言い方かもしれないけど、俺はTHE BACK HORNが始まった時に、思いつく限りの世界一かっこいいロックバンドの曲を書こうと思って、これからもそれは変わらないと思うんですよね。だから、その最強のロックミュージックを作る場所はすでにあるので、一方で生まれてくる、すごくキラキラしたポップスを形にしたいというのが、eijunプロジェクトの軸にはあるんです。そのためには、少し技術的な話になりますが、女性ボーカルのほうがメロディのオクターブも高くなって、その分、自分の思い描くキラキラしたポップスの雰囲気が出しやすくなるんですよね。もちろん男性でも出せるけれど、今自分が思う『最強のJ-POPってこういう感じ』というのを表現するには女性のほうがやりやすくて。これまでの楽曲提供でも、不思議と女性アーティストの楽曲が多くて、女性ボーカリストに曲を書くという新鮮さによりモチベーションを感じたというのもあります」

 

──第一弾のシングルとしてリリースされたのが『あいしてぬ (feat. さかな)』ですが、正直、ここまでキュンキュンくるポップソングがeijunさんから生まれてきたことに驚いたのと同時に、とても今の時代感覚をキャッチしたポップスであるということにも驚きました。

「この曲をはじめ、ここから順々に出てくる予定の曲たちは、自分のポップセンスの照準を合わせていく作業というか、それを定めていくチャレンジでもあるんです。ここから先はいろんな曲が出てくると思うんですけど、eijunとして最初にやりたいのは、とにかくキュンキュンするような、キラキラしたポップスで、とりあえず『あいしてぬ』はシングルカット的な感覚でリリースしました。シングル曲的に僕が今やりたいJ-POPの感じがぎゅっと詰まっている。中でも歌詞に、今一番やりたいポップのイメージが詰まっているかもしれません」

 

──この曲のボーカルをさかなさんに依頼したのはどういう経緯から?

「この曲はかわいい声の人に歌ってもらいたかったんですよ。それで知り合いにそういうボーカリストを探していると相談したら、紹介していただけて。すごく声が良いのでびっくりしました。さかなさんってすごく歌もうまいし、かわいい声だから、より歌詞がキュンとくる感じに仕上がりました」

 

──「あいしてぬ」という、語尾の「ぬ」こそが、まさにこの曲のイメージを決定づけていると思いました。

「これ、最初は普通に『あいしてる』という歌詞だったんですよ、デモの段階では。それでそのまま進んでいたんですけど、さかなさんに歌ってもらう直前になって、このままでは何か足りないなと。それで『あいしてぬ』だったらどうかなっていう、ふとした思いつきからでした。『あいしてる』とも『あいしてね』とも言ってない感じのほうがかわいいかなと(笑)。それで急遽変えたんです」

 

──「ぬ」という、このたった一文字の言葉のチョイスで、描かれている物語が圧倒的に立体的になったと感じます。

「『ぬ』にしたことで楽曲にシュールさが出たんですよね。だから突然『排水溝に詰まった羽の折れた天使が』っていうダークな歌詞が出てきて──これはTHE BACK HORNの曲(『ミスターワールド』)の歌詞からの引用なんですけど──ここをすごく爽やかな歌い方で歌ってほしいって、さかなさんにお願いしました。シュールさを強める演出ですね。2番の『よく見たらただの飛行機で 無表情で殴った』っていう歌詞とかも、もう『殴った』っていう言葉のダークさは忘れて、思い切りかわいくいってくださいとか、そういうディレクションをさせてもらって」

 

──eijunさんは自身のYouTubeチャンネルでの発信で、以前、作詞について言及されていましたよね。そこで「ワードセンス」つまり、メロディに乗る際の言葉選びの重要性について語っていましたが。

「ワードセンス勝負の時代が来て、もうしばらく時が経ったよという話をしたと思うんですけど、THE BACK HORNでは、メッセージ性を重視してきたんですよね。それでも時代の流れには抗えないところはあって、バンドでもメッセージを伝えながらワードセンスもうまく混ぜ込んで行くというトライアルをここ何作かやっていました。歌詞自体に物語性があって頭から最後までストーリーとして読めるし、なおかつワードセンスも負けてないっていう。それが自分にはできるという自負もあって、このプロジェクトではそういうトライをしていきたいと思っているんですよね。物語性とワードセンスの合わせ技。そのバランスを追求しようかなと思っています」

 

──現代ポップスにとって必須要素とも言えるMV制作にも力を注いでいますよね。そこはやはり重要な要素だと考えていますか?

「やっぱりもう、画がないと寂しいです(笑)。自分もリスナーとしてそうなってきているので。もちろん音だけでも聴きますけどね。Spotifyとかで聴いていても、少し短い動画がループされるような映像が出てきたりするじゃないですか。あれが今をすごく象徴しているなと思う。そこでイラストを柳すえさん、アニメーションに関してはINPINEさんに依頼して期待通りの時代にあった作品にしてもらいました。」

 

──トラックメイクについてもお聞きしたいんですが、『あいしてぬ』は現代的な音像を求めながら、普遍的な魅力を放つ楽曲として完成していると思うのですが、今回はポップミュージックとして、どういうものを目指して作っていったんですか?

「『あいしてぬ』は、90年代と80年代が同居している感じなんです。よく語られているのは、70年代と90年代とか、60年代と80年代とか、ひとつ飛びの年代同士は好相性だけど、80年代と90年代みたいに横並びの年代の音は馴染みが悪いっていう。なので今回はあえて、90年代っぽいドラムサウンドと、80年代っぽいシンセの感じをごちゃ混ぜにして、横に並んでる年代の音を繋げてみようと思って。リスナーはもう、そういうパッチワーク的なサウンドにも耳が慣れているし、それが今の時代感覚にも合っていると思う。言ってみればヒョウ柄の隣に迷彩柄がくっついてるような違和感のある組み合わせだけどおしゃれ、みたいなほうが面白いんですよね。そういうのは時代感的に意識して、少し不思議に聞こえるように混ぜてみました」

 

──これから先、このプロジェクトはどのように展開していく予定ですか?

「eijunプロジェクトは、これまでの自分のキャリアで得た音楽体験を自由に表現する作品を発表していくプロジェクトという位置付けなんですけど、さっき話したように今は女性ボーカリストの歌うポップミュージックを追求していきたいというモードなので、ここから先はしばらく女性ボーカルの曲しか書かないと思います。ディレクターやスタッフからは、例えば英語詞で作る曲とか、違うベクトルのものもいろいろ聴いてみたいという期待が寄せられているんですけど、今は一旦、女性ボーカルの曲に偏るけれど、その方向性でしばらくやらせてほしいと伝えています」

 

──では長い目で見た時に、eijunさんがこのプロジェクトで実現したいのはどんなことなんでしょうか。

「結局このプロジェクトでやりたいことというのは、J-POPの更新なんですよ。俺はそもそもポップ畑の人間ではないんですけど、むしろポップスの表現方法や文法、コード進行や歌詞の書き方をロックに持ち込んで作っていたという自負があって、それで最強のロックを作るというレシピが自分の中にはすでにあるんですよね。だから心の中ではすごくポップスの人だと思っているんです。その自分のセンスで、今度は直接的にポップスを表現したいという気持ちが土台にありました。あと最初に話したように音楽はコミュニケーションツールという側面も大事にしたいと思っていて楽曲のインストゥルメンタルも配信していく予定です。それこそいろんな人に歌ってみてほしいし、それを推奨していく方向でやっていこうと。そこからまた何かが生まれたら面白いですしね」

 

──eijunさんはSNS等での発信にもかなり積極的ですしね。それも意外だったんですけど。

「そうなんです(笑)。ここ最近、菅波さんってこういう人だったんですね、とかよく言われるんですよ。20年も音楽やってきて──作曲をし始めた時から数えればもっとですけど──YouTubeチャンネルとかでいろいろ配信するようになってから、初めて自分のことを知ってくれる人もいて。面白いですよね。『曲は1曲も知らないですけど人柄から興味を持ちました』って言う人がいたりして(笑)。なかなか面白い方向に人生が進んでいるんじゃないかなと思っています」

 

TEXT:杉浦美恵


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