DISC REVIEW リュックと添い寝ごはん

リュックと添い寝ごはんというバンドの「その先」にも大きな可能性を感じさせる1枚

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リュックと添い寝ごはんが12月9日にリリースするメジャーデビューアルバム『neo neo』は、「ネオ昭和」というテーマで制作がスタートしたという。平成生まれの彼らにとって、もちろん「昭和」はリアルタイムではない。テーマは途中から変わっていったというが、時代を越えて歌い継がれてきた名曲に宿る人間らしい温かみや、シンプルでありながら奥深い日本語で紡がれるあの時代の歌心が、今作に大きな影響を与えている。インディーズ時代の代表曲「ノーマル」も収録しつつ、心地好いグルーヴと懐かしいメロディを追求した先行配信シングル「あたらしい朝」や「生活」を含む全10曲は、2020年、音楽シーンに登場したリュックと添い寝ごはんというバンドの「その先」にも大きな可能性を感じさせる1枚になった。


ディスクレビュー | オフィシャルインタビュー

 


 

ディスクレビュー

 

1. 海を越えて 

目に浮かぶのは、ヤシの木が生える海辺の田舎道で思いっきり風を切りながら自転車を走らせる青年のすがた。70~80年代の日本のポップミュージックの煌めきと00年代生まれの感性が溶け合った懐かしいポップソングだ。一聴して口ずさめる優しいメロディに寄り添う、開放的なギターのフレーズが「ここではないどこか」へと連れ出してくれるよう。さりげなく歌われる“潮風そろり”という表現は、どこか古風で、メインソングライター松本の日本語へのこだわりと感じる。

 

2. PLAY

ローファイなギターに重なる軽快なスネア。底抜けに陽気なグルーヴがいざなうのは、日常という名の冒険の世界だ。「PLAY」というタイトルが表すとおり、RPGゲームに着想を得たというサウンドには、打ち込みやボンゴなど予測不応の音を遊び心たっぷりに盛り込んだ。「たたかう」と「にげる」のコマンド入力を駆使して、日常を「コンティニュー」し続ける私たちに、“笑っていられればいいじゃない”と歌いかける肩肘をはらない寄り添い方は、まさにリュクソ流の人生讃歌。

 

3. グッバイトレイン

インディーズ時代のミニアルバム『青春日記』の収録曲ながら、今作『neo neo』の作風にも通じる、自然と体が横にゆれるような心地好いナンバー。だが、歌詞はほろ苦い。時間を忘れ、電話越しで笑い合っていたふたりの関係が、やがて本音を噛み殺すようになり、終わりへと向かっていく。変化する心の温度を、「電車」というモチーフを軸に鮮やかに活写した。僕が乗る「青い電車」とは、青春の象徴か、悲しみのブルーか。想像力を掻き立てる余白もちょうどいい。

 

4. ホリデイ

パーカッシブなリズムと脱力感のあるギロのひびき。海辺に似合うギターのフレーズ。「海を越えて」に続き、常夏のシーサイドを思わせる爽快なナンバーだ。ライブではお客さんのハンドクラップでも一体になりそう。学校やら、バイトやら、会社やら。人生の大半を平日のあれこれに費やす私たちが、ホッと一息つけるのが休日のひととき。たとえそれが雨の日だとしも、“屋根に落ちる音が気持ちいいな”と思えれば、それでハッピー。朗らかな歌がふっと心を軽くする。

 

5. ノーマル

バンド結成初期に作ったという彼らの原点であり、代表曲。性急に刻むギターとエイトビート。心の内側を絞り出すような歌詞には、果たして自分には才能があるのか、明日こそ変われるのか、そんな自問自答が綴られる。松本の歌詞は、書き手の年齢を感じさせない普遍的な視座が貫かれるが、「ノーマル」に透けるのは紛れもない10代らしい葛藤だ。これも、『青春日記』からの再録だが、改めて今作に入れたことで、アルバムに1本の筋が通った。意義深い収録。

 

6. 生活

アルバムに先駆けて、8月に先行リリースされたダンスナンバー。時報の音を合図に、“空っぽな時が少し増えてきた”という歌い出しからは、コロナ禍のステイホーム中に制作したという状況が如実に現れている。スリーピースの中核として、メロディに寄り添いながら、奔放に跳ねるベースラインに個性が光る。あの時期、「音楽は不要不急のものなのか」と、多くのミュージックラバーが抱いた切ない問いかけに、“歌うたい”としての想いを託した。そんな意志も感じる1曲だ。

 

7. 23  

渋い。常連客が通う老舗のバー。その小さなステージで即興のセッションを繰り広げるようなスローなジャズナンバーだ。シンバルで刻む3拍子のリズム。甘いピアノとウッドベースのような滋味深さを湛えたベースライン。遠い昔の恋に想いを馳せ、静かに流れゆく調べは、10代のバンドの音とは思えない枯れた味わいがある。こういう曲を、メジャーデビュー作に入れてくるあたりに、リュクソとは、ジャンルの壁を軽やかに越えるバンドであるという宣戦布告のようにも聴こえた。

 

8. 渚とサンダルと

昭和のポップスへの憧れが根底にある今回のアルバムは、全体的に「シンプルの美学」が貫かれるが、この曲は、それとは真逆の立ち位置かもしれない。ギターと歌の弾き語りにはじまり、緩急をつけながら、複雑に展開していくナンバー。普遍なるものを追い求めながら、どこか捻くれた感性を隠せないあたりも、またリュクソの魅力のひとつだ。歌詞は女性目線。“恋心”を擬人化して語りかける手法からは、この歌の主人公に、どこか文学少女的な佇まいを想像してしまう。

 

9. あたらしい朝

「生活」に続く、今作の先行シングル。煌めくグッドメロディが涼やかなコーラスワークと優しく絡み合う、アルバムのなかでも屈指のエバーグリーンなナンバーだ。メロディに託された言葉数は決して多くないが、その一語一句に無駄がないのが、松本のソングライティングの最大の強みだろう。路地裏の粋な喫茶店、そこから出た瞬間に香る雨上がりの匂いと、肌にまとわりつく湿りけ。歌とは、耳だけで味わうのではなく、五感を震わせるアートであることを、この歌は教えてくれる。

 

10. ほたるのうた

アコースティックギターの弦がきしみ、松本がひとりで歌い出したメロディに、やがてバンドサウンドが加わる。それは、孤独な部屋ではじまった“小さな僕”の歌が、メンバーの音とつながり、さらに広い世界へとつながっていく、その現実をありありと音で体現したものだろう。誰もが心に“ほたる”を持っている。その光を自ら灯し続けることが、つまり、生きるということだ。そうやって、つながっていく日々の先が、少しでも明るいものであれたら。これまでリュクソが届けてきたすべてに楽曲に通じる信念が、この歌では生々しく歌われている。まさにアルバムを締めくくるのに相応しいナンバー。

 

 


 

 

オフィシャルインタビュー

 

 ――先行配信シングル「あたらしい朝」のインタビューのときに、「夏っぽいアルバムになりそう」って予告してくれてましたけど。聴いて「たしかに」と思いました。12月のリリースなのに(笑)。

松本:そうですね。もともと「夏っぽいアルバムを作りたい」って思ってたんですよ。
堂免:レコーディング中、ずっと波の音を聴いてたよね。
松本:うん。ボーカルを録るときに、「ちょっと波の音を入れてください」って言ってたんです。僕らのなかでは、そういう海辺が似合うような、開放的なライブをやりたいっていうのがずっとあるから。

 

――「いつか野外ライブをやりたい」っていうのが、リュクソの目標のひとつですもんね。

松本:はい、だからアルバムでも、そういう場所に似合う曲を作りたかったんです。

 

――アルバムの制作には「ネオ昭和」というキーワードを掲げていたそうですね。

堂免:でも、途中から「これ、昭和じゃないよね?」ってなったよね(笑)。
松本:レコーディングをやっていくうちに変わっていったんです。曲ができた順番で言うと、最初が「生活」「あたらしい朝」「ほたるのうた」だったんですね。そのあとに、えーっと……「PLAY」ができて。ここで、ちょっと方向性が変わっちゃったんですよ。
堂免:で、その次が「渚とサンダルと」じゃない?
松本:そこから、「海を越えて」と「ホリデイ」「23」が最後だったかな。

 

――話を聞いてると、後半にできた「渚とサンダルと」とか「海を越えて」「ホリデイ」あたりが、「ネオ昭和」のニュアンスが強いように感じました。

松本:たぶん、そのあたりにきてようやく「ネオ昭和」が何なのか、無意識に自分たちのなかに落とし込めていったのかもしれないですね。当初、めちゃくちゃ昭和歌謡を聴いていたときに作ったのが「あたらしい朝」だったけど、そのニュアンスを上手く出せるようになったのが「海を越えて」で。
堂免:最初は「シンプルに作ろう」とかも言ってたけど、だんだん言わなくなったもんね。
松本:もう懐かしいね(笑)。それこそ「ネオ昭和」っていうテーマと同じで、やってるうちに自分たちに沁みついてきたんですよね。昭和の曲は、シンプルな曲が多いと思うんです。伝えすぎないというか。それぞれの聴き手のなかで解釈が広がっていく。そういう曲を作りたいと思ってましたね。

 

――いま出来上がってみて、自分たちではどんなアルバムに仕上がったと感じていますか?

堂免:題名どおり、『neo neo』になったなと思いますね。レコーディングの時点から、いままでやったことのないようなことをたくさん試してるから、自分たちのなかで新しい曲調になったし。
宮澤:(インディーズ時代の)『青春日記』のときとは変わったよね。ちゃんと新しい一面を見せられるものになったと思います。
松本:そうだね。新しい一面を見せられて、自分たちのやりたいこともできたけど、まだまだできるっていうか。この先の可能性も見せられたのかなっていうのはありますね。

 

――今回はメジャーデビュー作にもなりますけど、制作で変わったことありましたか?

堂免:プリプロで合宿をやったんですよ。
松本:3泊4日ぐらい。山中湖でね。

 

――それはスタッフさんからの提案だったんですか?

宮澤:いや、自分たちで「行きたい」って言って。
松本:場所だけは提案してもらって。あれはうれしかったです。コロナでずっと部屋にいたから、バーンとした開放的なところに行ってみたかったんですよ。
宮澤:気分転換にね。
松本:「海を越えて」なんかは、合宿をしたからこそできた曲なんです。もともとこの曲は、すごくズーンとした重い曲だったんですよ。でも、僕が合宿の途中で山中湖の湖のほうに行って、そこで見た景色に感動したんです。富士山がすごくきれいで。「これを越えたら、どうなるんだろう?」っていうとこから、“あの山を越えて”とか、“雲に手を伸ばして”っていう歌詞も出てきたんです。
堂免:だから重苦しいサウンドよりも、越えていきそうなサウンドになったんですよね。

 

――楽器隊としては、このアルバムのなかの自分たちの役割は何だったと思いますか?

宮澤:ドラムは下から持ち上げる感じですね。バンッ!て前に出るというよりは、支える感じというか。『青春日記』の頃は、序盤から「わたしです!」みたいなドラムだったけど、今回は曲全体が心地好く聴こえるようなドラムを目指していった感じです。

 

――「ホリデイ」にパーカッションが入ってますけど、あれは宮澤さん?

宮澤:はい、私が叩いてるんですけど。ある日、スタジオに入った瞬間に、いきなり「やって」って言われたんですよ。「え、何!?わからん、わからん!」みたいな(笑)。知らん楽器だし……。
堂免:あははは!
宮澤:ボンゴとか。
松本:ギロも。
堂免:カウベルとかね。
松本:そういうのは作りながら、入れたいって思いついちゃうんですよね(笑)。

 

――宮澤さん、実際やってみてどうでしたか?

宮澤:楽しかったです、普通に。またいろいろな楽器を取り入れてみたいですね。

 

――堂免くん、ベーシストとしては、今回どんなことを意識しましたか?
 

堂免:いままででは考えられないぐらいシンプルにしました。コードをなぞるだけ、みたいな曲も多いので、すごく我慢しましたね……まあ、我慢できてない曲もあるんですけど(笑)。いままで勢いだけでなんとかしてたところを、一音一音丁寧にやったつもりです。こだわるところはそこしかないから、そこを完璧にやってやろうと思って。曲の雰囲気に合わせてニュアンスも変えてるんです。
松本:それは音に出てるよね。
堂免:うん。あと音色に関しても、いままでは「これが自分の音だから」っていうこだわりを持ってたんですけど、曲によって合う音を探して、いろいろ試行錯誤をしましたね。

 

――たとえば、「23」はジャズっぽい曲ですけど、使ってるのはアップライトベースですか?

堂免:いや、あれは借りモノのSGベースですね。特別な弦を使ってるんですよ。ふつうはアップライトベースとかフレットレスベースとかに張る用の弦なんです。マニアックは話ですけど……。

 

――それを使うと、エレキベースよりも深くて温かみのある音が鳴るっていうこと?

松本:そうですね。コントラバスまではいかないけど。
堂免:もこもこした感じになるんです(笑)。

 

――ちなみに、「23」は、リュクソとしては新しいアプローチの曲だと思いますけど、どういうイメージで膨らませていったんですか?

松本:自粛期間に映画をずっと見てて。そこで、『ジャージー・ボーイズ』っていう映画を観たんですよ。その作品のなかで、ジャージー・ボーイズのメンバー4人がバーでセッションするシーンがあるんですけど、こういうのを作りたいって思ったんですよね。途中で出てくるギターはその影響が出てますね。音色とかもバーで聴いてる感じを再現したくて、クリアになりすぎないようにして。
宮澤:これを録るとき、うちらの位置も違ったもんね。みんなで向き合って。
堂免:それがテーマだったからね。偶然、そのバーに居合わせたお客さんたちが即興で弾き出しました、みたいな。そいういうノリなんですよ。
宮澤:だから、ほぼアドリブなんです。照明も落としてね。
堂免:めっちゃ暗くて、全然見えなかったよね。ライブ感を出すために、この曲だけテンポを聞かずにやってるんですよ。だから、他の曲とは全然違うし、テンポもよれよれだと思います。

 

――タイトルの「23」っていうのは、どういう意味なんですか?

松本:23時に聴きたいっていうことですね。いろいろ数字の候補で考えたんですよ。あえて「時」をつけなかったのは、いろいろな捉えられ方があるかなっていう感じで。
堂免:謎めいてて、かっこいいよね。
宮澤:たしかに。「何これ!?」ってなるよね。

 

――私は23歳の青年が、若き日の恋を思い出して歌ってるのかなって思いました。

全員:おぉー!
松本:でも、これ、主人公のイメージは56歳なんですよ。
全員:あはははは!
松本:でも、「56」がタイトルなのはちょっとね……っていうところで(笑)。これは、前回のアルバムで言うと、(弾き語りの)「500円玉と少年」みたいな立ち位置ですね。自分たちのなかで、すごくチャレンジな曲なので。やっぱりそういう曲は入れたいんですよね。

 

――さっき堂免くんが言ってた、主張を我慢できなかった曲は「PLAY」あたりかなと。

松本:あれはベースが目立ってますね(笑)。
堂免:「PLAY」は、曲全体として「遊ぼうぜ」っていう感じで作っていったよね。
松本:スタジオで作った曲だしね。
堂免:年明け前に。
松本:もともとRPGとかのゲームからイメージしてるんですよ。ゲーム音楽っぽいデモで。
堂免:とにかく遊び心がある。
宮澤:ウキウキする曲だよね。
松本:本当は1曲目にしようと思ったんですけど、いきなり“さあ冒険の始まり”って言われても、聴いてる人を置いてきぼりにしちゃうなと思って。「海を越えて」のあとに入れることにしたんです。

 

――パーカッションと打ち込みのサンプリングをミックスしたリズムも楽しいですね。

松本:あれは宮澤さんがやったもんね、自分でね。
宮澤:2番のベースが目立つところのあとにドラムが入るんですけど。あそこはひとり1回ずつ、試しにやってみたんですよ。で、目をつぶって、3個全部聴いて、「どれがいい?」っていうので、最終的に私のが選ばれたんです。
堂免:あれさあ、よくよく考えたら、僕、左利きなのに右手で操作したからさ……。
宮澤:言いわけしてらっしゃる(笑)!
全員:あはははは!

 

――話を聞いてるだけで、今回のレコーディングの楽しそうな雰囲気が伝わってきます。

宮澤:たしかに楽しかったのかな。制作期間は7ヵ月だったんですけど、短く感じましたね。
松本:「音楽制作」って感じがしたよね。
堂免:うん。アルバムをゼロから作るのは初めてだったから、それも新鮮でしたね。

 

――アルバムの最後を締めくくる「ほたるのうた」はメッセージ性の強い曲ですね。“灯る灯る心のほたる 神様は灯さない”というフレーズがすごくいい。

松本:これは自粛期間に作ってたんです。自分のやる気とかモチベーションを保ちづらい時期があったんですよね。だから、コロナで消えかかってる光を、自分で灯そうっていう気持ちで書きました。相当落ち込んでたんです。ニュースではニューヨークがロックダウンするとか言ってて。
堂免:毎日暗かったよね。
松本:ある種、これは戦争というか。世界が暗い時期だったから、それでも自分のなかの「ほたる」を灯し続けたいし、聴いてくれる人の心にも灯っていてほしいなと思って書いたんです。

 

――ちょっと大袈裟かもしれないけど、こういう状況のなかで、いまより少しでも明るい未来を肯定することがポップミュージックの役割というか。そういう想いもあるのかなと思いました。

松本:うん。やっぱり僕らみたいな音楽を作る側が暗くても、どうなんだろうな?っていうのは思ってるんですよね。もちろん世の中にはいろいろな音楽があるけれど、自分たちが発信する音楽は、明るいものがいちばんだなっていうのはずっとあるんです。

 

――最初に「夏っぽいですね」なんて話もしましたけど、アルバムを通して聴くと、そういう季節には限定されずに、長く聴き続けられる作品になったなと思います。

堂免:本当に聴きやすい曲が多いから、いろいろなシーンで聴いてもらいたいですね。
宮澤:ちゃんと聴いてくれる人の日常に寄り添えるような作品になればいいなと思います。

 

TEXT:秦理絵