DISC REVIEW

「新しい藤原さくら」が、ここにいる


 

「新しい藤原さくら」が、ここにいる


 「今までとは毛色がかなり違うと思います。自由度が高いし自分の趣味に走りまくっているし(笑)。以前だったら『ここまで振り切ってしまって大丈夫かな?』と思っていたところまで、今回は挑戦しています。ジプシージャズみたいな曲もあれば、ラップみたいな曲もある。(中略)全体的にかなり攻めた内容になるはずです」

 

 今年1月に筆者が行ったインタビューで、当時制作中のニュー・アルバムについて藤原さくらに尋ねたところ、このような答えが返ってきたのを思い出していた。あれからおよそ9ヶ月、私たちのもとに届けられた彼女にとって通算3枚目のアルバム『SUPERMARKET』は、あの時の予告通り非常にアグレッシヴかつヴァラエティに富んだ内容に仕上がっている。

 

 もともと本作は、ギタリストの関ロシンゴ(Ovall)とスタジオで彼女のデモテープをブラッシュアップするところから始まったという。当時はアルバムを作る予定や新曲リリースの予定などを決めずに、DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)を用いてのアレンジの詰め方など、曲作りのための基本的なノウハウを習得するために行われた「個人レッスン」だった。が、そこで制作されたデモ音源のいくつかは、後に“Twilight”や“Ami” “Waver” “Monster” “コンクール” “spell on me” “ゆめのなか” “BPM” “楽園”となりアルバムに収録されることになったわけだから、全てはここから始まったと言っても過言ではないだろう。

 

 レコーディングには、昨年〈Twilight Tour 2019〉のために結成されたTwilight Hot Guys(須田洋次郎、猪爪東風、渡辺将人)や、全国のフェスを共に回ったYasei Collective&別所和洋をはじめ、OvallやYAGI&RYOTA(SPECIAL OTHERS)など、これまで長年にわたって藤原を支え続けてきた面々が参加。一昨年、トータル・プロデュースという形で『green』『red』の二枚を手掛けたmabanuaも、Ovallとしてだけでなく本作に彩りを添えている。さらに、今回が「初タッグ」となるスカートこと澤部渡やVaVa、アルバム『SUPERFINE』(2016年)に藤原がボーカル参加したことから交流の始まった冨田恵一も加わり、これまで垣間見ることのなかった「新しい藤原さくら」を引き出すことに一役買っている。

 

 また、今作が特徴的なのは、藤原自身が作詞作曲のみならず、アレンジや音作り(サウンド・プロダクション)にも積極的に関与し、彼女の頭の中にあるイメージを各プロデューサーと共有しながら作り上げていったことだろう。例えばYasei Collective&別所和洋との楽曲“Twilight”では、藤原のデモ音源に打ち込んだホーンのフレーズがそのまま採用されていたり、先行リリースされた“Monster”は、プロデューサーの冨田本人が「一人では辿り着けなかった」と公言するくらい、藤原のアイデアが重要な鍵を握っていた。関ロシンゴによる“Waver”に至っては、テイラー・スウィフト風のデモを「ディアンジェロみたいにしたい」という無理難題を藤原から課せられた関口が、そのミッシング・リンクを辿るように紡ぎ上げたからこそ、あのいなたくもどこか浮遊感のあるアレンジに仕上がったはず。一方、VaVaがトラックを先に作り、そこにメロディーとラップを乗せていった“生活”は、普段の曲作り(アコギ弾き語り)では思いつかないようなラインが次々と浮かんできたという。名だたるプロデューサーたちに「お任せ」するのではなく、共に試行錯誤を繰り返したからこそ、本人が予告した通り「全体的にかなり攻めた内容」になったのだろう。

 

 関口シンゴとの「個人レッスン」に始まり、様々なプロデューサーとの「共作」を経て今回、藤原さくらが到達した境地は楽曲“marionette”で聴くことができる。アルバムの最後にレコーディングされたこの曲は、Curly Giraffeこと高桑圭(Ba)、Yasei Collectiveの松下マサナオ(Dr)、そして星野源との仕事でも知られる小林創(Pf)と共にスタジオに入った藤原が、自身のデモをもとにセルフ・プロデュースで完成させたもの。極限まで音数を削ぎ落としたアレンジと、メンバー同士がお互いの間合いを図り合うようなアンサンブル、その上で徐々に熱を帯びていく藤原のブルージーなボーカルが、思わず呼吸するのを忘れてしまうほどの緊張感を生み出しているのだ。

 

 歌詞に目を向けると、コロナ禍でレコーディングされたこともあり、“生活”のようにステイホームの日々を綴った曲もある。他にも「他者」との関係性によって感じる「生きづらさ」をテーマにした“marionette”や、変わっていく環境に想いを馳せた“楽園”など、自分自身の身の回りの出来事を取り上げながらも、どこか「諦観」のようなものを感じさせるのが、藤原の歌詞に共通する特徴である。前作アルバム『PLAY』では、「様々な人を演じながら歌詞を書いた」と話していた藤原だが、そうやって他人の人生に寄り添ったことで、自分自身を客体化できるようになったのかもしれない。

 

 これだけ振り切ったアルバムなのに、全体的には散漫にならず統一感があるのも不思議だ。いずれにせよ、デビュー時の「アコギを抱えたシンガー・ソングライター」のイメージはもはやほとんどない。本作のアルバム・ジャケットが象徴するように、色とりどりの「音」と自由気ままに戯れる「新しい藤原さくら」が、ここにはいるのだ。
 

Text: 黒田 隆憲

 


 

 

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