DISC REVIEW リュックと添い寝ごはん

リュックと添い寝ごはん「あたらしい朝」Interview

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SPECIAL INTERVIEW


リュックと添い寝ごはんが、12月9日にリリースするアルバム『neo neo』でSPEEDSTAR RECORDSからメジャーデビュー。そのアルバムからの先行配信となるデジタルシングル「あたらしい朝」を10 月2日リリースした。メジャーデビューを控えた心境や、これまでのギターロックサウンドから幅を広げ、新たなポップスを追求した今作について、メンバー全員に聞いた。


 

不安は「幸せの涙」だと思う。自分の殻を破るチャンスなんですよね。
 

 ──メジャーデビュー、おめでとうございます。

全員:ありがとうございます。

 

──周りからの反響はいかがですか?

堂免英敬(Ba):身近な人から、すごく言われますね。「おめでとう」って。
宮澤あかり(Dr):SNSのDMもたくさんいただいて、うれしいです。

 

──メジャーデビューを控えて、いま率直にどんな心境ですか?

宮澤:決まったときは、メンバーみんな不安だったんです。やっぱりまだバンドとしての活動歴も浅いし、自分たちでも「いいのかな?」っていうのがあったんですけど。発表が近づくにつれて、気合というか、覚悟というか……「がんばっていこうね」っていう気持ちになりましたね。

 

──「がんばっていこう」って覚悟を決められたきっかけはあったんですか?

宮澤:これはユウくんから話して。
松本ユウ(Vo/Gt):実は、メジャーデビューを決めるまえに、「まだメジャーデビューするのは早いんじゃないか」っていう話をしたことがあって。スタッフの人たちと話したあとに、メンバー3人だけで集まって、「今後どうするか?」みたいな話をしたんですよ。2、3時間ぐらい話したよね?
宮澤:うん。
松本:そのときに、不安っていうのは、「幸せの涙」だと思うって伝えたんです。

 

──幸せの涙?

松本:はい。不安があるっていうことは、自分の殻を破るチャンスなんですよね。自分が変わることができるタイミングでもあるかなと思って。そう考えれば、いま感じてる不安に対して、「自分は幸せだな」って捉えられるんじゃないかって。
宮澤:それで、「みんなで、がんばっていこうね」ってなりました。
松本:僕たちには明確にやりたいことがあるので。そこに向けて「がんばるぞ」っていう気持ちになりましたね。いろいろな出会いを楽しみたいなと思ってます。

 

──以前のインタビューでは、自分たちのやりたい音楽をやることが大切だと言っていましたけど、メジャーデビューをして、「明確にやりたいこと」は他にありますか?

松本:いや、それを変わらずにやっていきたいと思ってます。そのうえで、いろいろな出会いのなかで、自分たちのやりたいことをもっと深く肉付けしていきたいです。
宮澤:メジャーデビューしたからって変わるんじゃなくってっていうことですよね。
堂免:変わらずに変わっていきたいです。
松本:あとは、やっぱり野外でライブをしたい。

 

──ことあるごとに言ってますね。「野外をやりたい」って。

松本:これは言い続けていきたいですね(笑)。

 

──今後、リュクソはスピードスターレコーズに所属するとなると、松本くんが憧れるアーティストのみなさんともレーベルメイトになりますね。

松本:ヤバいですよね(笑)。スピードスターの一員になれたことは本当にうれしいです。

 

 

僕らの日常の雰囲気を見せられたらいいな
 

──先日8月26日に初のワンマンライブと銘打って、配信ライブ「ワンマンショー inお茶の間」を開催しました。やり終えてみてどうですか?

堂免:最初は緊張してたけど、途中で吹っ飛んじゃいました。楽しくて、あっと言う間でしたね。
宮澤:クイズコーナーがあまりに盛り上がりすぎて、長くなっちゃったんですけど(笑)。

 

──ロックバンドだと、「演奏だけ届ける」っていうストイックな発想もあると思いますけど、ああいったバラエティコーナーを設けたのには何か意図はありますか?

松本:今回は配信ライブでしかできないことをやろうって決めてたんです。そのなかで僕らの日常の雰囲気を見せられたらいいなと思ってたんです。あとはセットチェンジの時間も必要で。

 

──前半はスタージ上で、後半はフロアで3人が向き合って演奏してましたね。

松本:そうです。やっぱり無観客ライブだと、「自分たちの想いをどこに届ければいいんだろう?」って思うところがあって。3人が真ん中を向いて、いつものスタジオ練習みたいなかたちでライブをすることで、普段のライブとは違う姿を見せられたらと思ってたんです。お互いに目が合うしね。
宮澤:向かい合ってやるほうが、ゆるく自分たちらしくできるんですよ。
堂免:普段の自分たちの様子を見てもらえたんじゃないかなと思います。

 

──リュクソって「日常感」を大事にしてるバンドですよね。それは楽曲からも窺えるし、配信ライブの組み立て方にも、そういう想いが根本にあるんだろうな、と思いました。

松本:そうですね。そこは、これからも大切にしていきたいです。

 

 

みんなが元気になる曲を作りたかった
 

──そのワンマンでも披露された「あたらしい朝」が10月2日に配信リリースされるということで。一聴して口ずさみたくなる温かい曲ですね。あの日も堂免くんはベースを弾きながら歌ってたし。

堂免:はい(笑)。

 

──もともと、どういうイメージで作り始めたんですか?

松本:これは先に映像のイメージがあったんです。高円寺とかで西荻とかの路地裏の喫茶店に通ってる少女が主人公で、みたいな。

 

──曲を書くときに、そういう設定を決めてから書くことが多いんですか?

松本:たまに情景とか映像をイメージすることがありますね。今回はそういうパターンです。

 

──堂免くん、宮澤さんは、この曲のデモを聴いて、どんなふうに感じましたか?

堂免:これ、「めっちゃ良いから聴いて」っていう感じで、ユウくんからデモが送られてきて。まだAメロだけだったと思うんですけど、僕も懐かしさを感じましたね。そこから、弾き語りでまるっと完成したあとに、「これ、“うたつなぎ”で出しても大丈夫?」みたいな話をした覚えがある。
松本:そうだね。サビだけ、うたつなぎで歌ったんですよ。歌詞は違ったんですけど。当時、Aメロが先にできて、あとからサビができて、それをつないで1曲にしたんです。

 

──SNSで「うたつなぎ」が流行った頃だと、曲ができたのはコロナの自粛期間だったんですか?

松本:そうです。だから、スタジオに入れなくて1ヵ月ぐらい眠ってたんですけど。緊急事態宣言が明けてから、スタジオで合わせて、すぐにレコーディングしてっていう感じでした。

 

──この曲はコーラスワークが素敵ですね。

松本:初めてやってみましたね。作りながら、このコーラスは絶対に入れたいって思ったんです。

 

──歌ってるのは?

松本:宮澤さん。
宮澤:あと、サポートの方も歌ってくれてます。いままでコーラスってやったことがなかったんですけど、楽しみながら歌えました。ユウくんが出したい雰囲気とかも伝えてもらって。
松本:ちょっとブラックなというか……。

 

──ゴスペルっぽい感じ?

松本:ああ、そうです。なんだけど、気分は少女でいてほしかったんです。雨あがりの道を歩く少女。あと、「ジブリっぽく」っていうのは伝えました。
堂免:コーラスが入ることによって、僕たちの新しい一面を見せられる曲になりましたね。

 

──他にサウンドの方向性として、目指していたことはありますか?

松本:12月にリリースするアルバムの先行シングルになるんですけど、当初、そのアルバムのコンセプトが「ネオ昭和」だったんですよ。でも、アルバムの曲を作っていくなかで、「あたらしい朝」以外に昭和感が出せなくて(笑)。この曲は、そのネオ昭和っていうのを意識しながら作ってました。

 

──「ネオ昭和」というのは、昭和的なものを、平成生まれの感性で音楽にしていくという意味だと思いますけど、どうして、それを表現したいと思ったんですか?

松本:いまでも昭和の楽曲って廃れないと思うんですよね。メロディがいまとは全然違うじゃないですか。「ヨナ抜き音階」が使われてたり、独特の懐かしさがあって。そこに魅力を感じるんです。

 

──特に魅力を感じる昭和の楽曲と言うと?

松本:ユーミンさんとか、あとは細野(晴臣)さん、はっぴいえんど。
あとは松田聖子さんとか、松田聖子さんの歌詞を書かれてる松本隆さんとか。そのあたりかな……実は、この曲は3月9日に作ってたんですけど、ちょうどコロナの感染拡大が広がりはじめて、社会全体が暗くなってた時期で。みんなが元気になる曲を作りたかったんです。それで、「上を向いて歩こう」みたいな曲にしたいなとも思ってました。

 

──なるほど。この曲って言葉数が少なくて、すごくシンプルだなと思ったんです。だからこそメッセージが明快に伝わるというか。それは「上を向いて歩こう」を意識したからなんですね。

松本:はい。歌詞の言葉数については考えましたね。言葉を増やせば増やすほど、僕のイメージを明確に伝えることはできるけど、逆に少なければ少ないほど、その人の解釈で聴いてもらえると思うんです。ゆったりとしたテンポのなかで言葉を入れすぎてもなっていうのはありました。

 

 

それぞれの曲で出てくる「雨」には違う意味があると思うんです
 

──“雨”に自分が乗り越えるべきものを重ね合わせて書くのは、松本くんらしい切り口ですね。いままでの曲でも、雨上がり、夜明けをテーマにした曲は多くて。

松本:よくやりますね(笑)。ただ、それぞれの曲で出てくる「雨」には違う意味があると思うんですよね。たとえば、「サニー」だったら、自分のなかでやりたいことがあって、そこに向かっていくときに抱く気持ちというか。で、この曲の「雨」はコロナ期間のことなんです。雨あがりに歌いたい、聴いてほしい、そういう歌にしたいなと思ってました。

 

──ひとつ気になったんですけど、全体に雨上がりの明るい曲だけど、“僕の心の中は/悲しい気持ち忘れても/心は濡れてる”という部分だけ、悲しみの感情を残したのはどうしてですか?

松本:結果、雨が上がったとしても、その過程にいる悲しみとは消えないなと思ったんです。僕のなかでは、コロナで経験した悲しみのひとつに、「時間が奪われた」っていう感覚があるんですね。バンドのことで言うと、ライブができなかったりとか、この時間に経験できたはずのたくさんのことを逃しただろうなっていうのはあって。そういう気持ちは残しておきたかったんです。

 

──メンバーとしては、この曲の歌詞は、どんなふうに受け止めましたか?

堂免:言葉の一つひとつで風景をイメージできる曲だなと思いました。ところどころ、かわいさを感じますね。“冷コーひとつ”って出てきますけど、“アイスコーヒーひとつ”よりもいいなって。

 

──歌詞のかわいらしさ、わかります。タイトルが「新しい朝」ではなく、「あたらしい朝」って、ひらがなで表記したことにも、こだわりを感じますし。

松本:そこは意識しましたね。やわらかい感じを出したかったんですよ。
宮澤:なんとなく親しみやすいですよね。

 

──ちなみに、この曲はコロナ禍の心境であると同時に、これからメジャーデビューするバンドの気持ちを重ねる曲としても捉えられると思ったのですが、そのあたりはどうですか?

松本:それもあると思います。メジャーデビューで「変わるぞ」と言うよりも、このタイミングでちゃんと新しい自分たちを提示する曲にしたかったんです。
宮澤:だから、「ノーマル」っていう曲で、私たちを知ってくれた人も多いと思うけど、ああいう曲とは違う変化をつけたいなっていうのは意識して作ってたんです。
松本:いまリュクソがやりたいのはこういうことなんだっていうのが伝わればいいなと思ってます。

 

 

TEXT:秦理絵