LIVE REPORT

くるりが5人で鳴らしたロックバンドのエモーション


くるり
くるりライブツアー2022
2022年8月5日(金)@東京・Zepp Haneda


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くるりはパンデミック後、最大の規模のツアー「くるりライブツアー2022」を行い、愛知、岡山、福岡、大阪、宮城、北海道と全国を回った。ようやく全国のファンの前で演奏できた喜びと足を運んでもらえたことへの感謝を岸田がMCで何度も語っていたことからもこのツアーがくるりにとって念願だったことと、今の時期に無事完走できたことの安堵が表れていた。

 

僕はくるりが去年の6月に行った2021年ツアーの東京公演と、今年2月に行った結成25周年記念ライブ「くるりの25回転」を見ていたので、今回の公演は自然とそれらとの比較をしてしまっていたのだが、結論としては全くの別ものだと思った。2021年のライブはアルバム『天才の愛』のリリース・ライブでもあったが、それと同時にパンデミック後にようやく行うことができた有観客ライブだった。だから、新作の曲のお披露目と久々にライブを観に来ることができたファンのための“くるり名曲選”的なセットリストが組まれていた。そこでは久々のライブでの緊張感みたいなものも感じられたのが印象的だった。パンデミック前とは勝手の違うライブに戸惑っていたのは僕ら観客だけではなかったわけだ。

 

今年2月の「くるりの25回転」は25年のくるり史を特別編成で辿るライブだったので、普段の編成ではできない隠れた名曲などを交えた企画性の高いライブだった。岸田繁の音楽オタク/マニアぶりがいかんなく発揮された“込み入ったアレンジ”に彩られた代表曲はくるりの過去曲の新たな可能性を引き出したりもしていた。その意味ではここ2年のライブはコンセプトがはっきりとあるセットリストだったと思う。

 

その比較で今回のライブを観た感想としては、少しずつパンデミック禍のライブにバンドもスタッフも観客も慣れてきたところで、ライブならではの爽快感やパワフルさみたいなものをようやく発揮できるセットリストだったのかもしれない、と言った感じだろうか。

 

Zepp Hanedaでのセットリストは各ストリーミングサービスのプレイリストにまとめられているのでぜひそちらを確認してほしいが、人気曲を配置しつつもずいぶんマニアックな曲もちらほら。印象的だったのが、ゴリゴリにロックバンド然とした曲が多かったこと。「Bus To Finsbury」から始まったし、中盤には「bumblebee」「Morning Paper」「しゃぼんがぼんぼん」や、「青い空」「white out (heavy metal)」「マーチ」「Giant Fish」のセクションもあった。そして、終盤には「everybody feels the same」が置かれている。となれば、松本大樹が活きる選曲でもあり、うるさくて、歪んだギターの響きをさまざまなバリエーションで聴かせる“ロック”なライブになる。その並びに置かれた「Tokyo OP」は今までのライブで感じた異物感がなく、それまでの曲のギターの歪みから自然に繋がっていくプログレッシブ”ロック”といった印象でこれまでに見たどのライブよりも自然に馴染んでいた。

 

少し話はズレるが2022年7月にくるりのライブ映像をコンパイルした完全生産限定ボックスの『VOX SET』がリリースされていて、僕はそのブックレットのためのインタビューをしている。その際に訳あって、くるりの過去のデモ音源を色々聞かせてもらった。そこには曲になっているものも、ただのアイデアに過ぎないものも混ざっていたのだが、特に多かった音源がとりあえずオルタナもしくはグランジ文脈の手癖っぽいギターを鳴らしてみたセッション。エレキギターを鳴らしながら、曲を作ってきた彼らの記録を聴いて、改めてくるりって“ロックバンド”なんだなと実感していたところだった。

 

そして、『VOX SET』にも収録された「京都音楽博覧会 2021」の学生会館でのライブも観たのだが、これは今回と同じ野崎泰弘(Key)、松本大樹(Gt)、石若駿(Dr)との5人編成。ここでは学生時代によく演奏していた会場でそのころの気持ちを思い出しながら、というわけではないだろうが、今のくるりの最小編成で、“最初期を思い起こさせるロックバンド然とした勢いのある演奏”を聴かせていて、演奏している彼らも学生時代に戻ったような不思議なテンションになっていた。僕は「近年のくるりのライブに行っても聴けない貴重なライブですね」なんて岸田・佐藤の2人に向かって言っていた。

 

冒頭の「Bus To Finsbury」で、バンドの音が大音量で塊になって飛び込んでくる感じ、ガシャっとしたノイズが耳をつんざく感じを聴いた瞬間、僕はすぐにこのふたつを思い出した。そして、多くの人たちがパンデミック中に体験したくてもできなかったのは、こういうライブならではの、ロックンロール・ショーならではの身体全体で感じるような響きだったんだよ、とも思った。だからこそ、演奏もどこかラフで荒々しいもの。2000年代に眼鏡を吹っ飛ばしていた頃の岸田、とまではいかないが、この日はとにかく勢いがあった。近年の岸田は朗々と、もしくは細部まで丁寧に歌うことが多いが、声を喉から絞り出すように切迫感が宿るに歌っていたのも珍しい光景だったと思う。そのエモーショナルなロック的な表現に石若駿のドラムも完ぺきに応えていた。その高い技術や彼ならではのグルーヴはそのままにロックらしいザラッとしたニュアンスがバッキバキに鳴っていた。

 

僕は石若駿がくるりに参加し始めて定期的に見ているが、この日は石若を含めた5人が「くるりのふたり+サポートメンバー3人」ではなく、ひとつの“ロックバンド”として見えていた。言うまでもなく、これまでも5人のコンビネーションは素晴らしいものだったが、この日の彼らは「優れたバンド」ではなく、「ロックバンド」だと感じた。パンデミックによりライブがコンスタントに行えていない中でも、今のメンバーでのくるりのバンドサウンドが確実にブラッシュアップされ、確実に進化しているのがよくわかった。今のくるりのロックバンドとしての表現力の到達点を僕は感じることができた。

 

そんなこのメンバーで、このタイミングで、そして、東京の最終公演のアンコールで最後にやったのは「くるりの25回転」でなぜかやらなかった「東京」だった。この日のセットリストの流れに合いすぎるあまりにエモーショナルなこの曲のサウンドが染み入ってきて、終わった後も心地よい余韻があった。

 

Text:柳樂光隆
Photo:Ryo Mitamura

 

 

 

 

 

 





 

 

 

 

SET LIST

 

Bus To Finsbury
目玉のおやじ
コンバット・ダンス
ブレーメン
忘れないように
bumblebee
Morning Paper
しゃぼんがぼんぼん
青い空
風は野を越え
Time
さよならリグレット
ばらの花
white out (heavy metal)
マーチ
GIANT FISH
かごの中のジョニー
Tokyo OP
新曲
ハイウェイ
loveless
everybody feels the same
ロックンロール

[ ENCORE ]
琥珀色の街、上海蟹の朝
飴色の部屋
東京

 

 

MEMBER

 

岸田繁(Vo&Gt)
佐藤征史(Ba)
石若駿(Dr)
松本大樹(Gt)
野崎泰弘(Key)