LIVE REPORT

くるりが今、鳴らしている音。くるりの25年がもたらしたもの。

くるり
結成25周年記念『くるりの25回転』
2022年2月11日(金・祝)@東京ガーデンシアター 


REPORT | PHOTO | SETLIST | MEMBER



 

 20年くらい前に僕が大学生の頃に何度もライブを観に行っていたくるりが25周年を迎えて、その25年を振り返るようなライブをやる、とのことで東京のガーデンホールに観に行った。僕はくるりを熱心に聴いてたこともあれば離れていた時期もある。話題になっていたからと久々に聴いた新譜もあったし、スルーしたこともあった。そのくらいの距離感だったのだが、ここ数年はまた熱心に聴いている。その理由はたまたまくるりの音楽が僕の関心と近づき始めたこともあるし、僕が追っかけていた石若駿がくるりのドラムを担当するようになったこともある。そんな塩梅のライターが書いた文章だと思って読んでほしい。

 

選曲で言えば、前半ははっきり言って“懐かしい”としか言いようがない並びなわけだが、そのライブでのパフォーマンスって話になるとこれが全く懐かしく聴こえないのがくるりというバンドの面白さだと改めて思った。過去の曲を時系列で演奏することで現在のくるりの魅力が浮かび上がるような企画になっていたと思う。

 

2曲目の「虹」なんて通学時にポータブルCDプレイヤーで擦り切れるほど聴いた曲だが、改めて気付くこともあれば、くるり自体が変わっていることもあり、どこまでも新鮮に聴くことができた。ここからはこれを読んでいる人がこのライブをアーカイブでも観ている前提で書いていくことにする。なぜなら改めて家で観てみたらめちゃくちゃ面白かったからだ。

 

その「虹」で言えば、僕は8:20ごろの松本大樹のギターソロからの箇所を何度も巻き戻して聴き返してしまった。8:50辺りで岸田にソロをバトンタッチした瞬間から、バンドに別のスイッチが入り、演奏が変わる。その後も10秒ごとにまたスイッチが切り替わる。そのたびに佐藤のベースが動いて、そこに石若のドラムもピタッとついていく。岸田の後ろでは松本のギターも的確に並走している。9:50くらいでギターソロ・パートは終わるので、たった一分半のことだが、この部分のアンサンブルの素晴らしさだけでライブバンドとしてのくるりのすごさがわかってしまう。そのバンドとしての柔軟さにはジャズを出自に持つ石若駿が貢献しているもの伝わってくるし、彼がここまで活きるのはリズムセクションの相棒でもある佐藤の卓越したベースの存在があるからということもわかる。そして何と言っても岸田&佐藤の息の合い具合よ。これこそ"キャリアを重ねてきたロックバンドを見る喜びの具現化"みたいな演奏だと言ってもいいと思う。

 

そして、「惑星づくり」「ばらの花」「ワンダーフォーゲル」「ワールズエンド・スーパーノヴァ」の4曲に関しても、ぜひじっくり聴いてみてほしい。シカゴ系ポストロックを感じさせるひんやりしたインストの「惑星づくり」から始まり、大名曲「ばらの花」、そして、テクノなどのダンスミュージックを取り入れた「ワンダーフォーゲル」「ワールズエンド・スーパーノヴァ」へと連なるこの4曲はそれぞれ打ち込み的だったり、DAW的なクールで無機質な質感が独特の情感を生んでいた曲なのはファンにはおなじみだが、この4曲の全く異なるニュアンスを原曲のビートの印象を損なうことなく見事に叩き分けている石若駿に改めて驚いた。何度も巻き戻しつつ、時折iPhoneで原曲を確認して聴き比べてみたりすると、ここでのドラミングの素晴らしさがよくわかると思う。それぞれのスネアの響きや音色ひとつでも全く異なる質感があって、敢えてスパーンと響かせる「ワールズエンド・スーパーノヴァ」とスネアの上に財布を置いてミュートしている(23:48あたりに財布が映る)「ばらの花」でのそれぞれの音の作り方と鳴らし方も含めて、この4曲のドラムの違いだけでもわかるサウンドの豊かさが楽しい。(ちなみに「琥珀色の街、上海蟹の朝」でもスネアの上に財布を置いているのが見える。ストーミングではそんなところまで確認できるので細部を凝視するのをお勧めする。)

 

僕はこのライブでくるりの25年の重みを最も感じたのは、名曲を振り返るということだけではなかった。超絶テクニックの新星ドラマーだった石若駿を起用し始めて数年、今やくるりのツアーには欠かせないひとりになった彼がこの数年で大きな成長を遂げていることが、くるりの25年分の(あまりにバラエティに富み過ぎている)楽曲を演奏している姿から見えてきたことはくるりの存在の大きさを感じさせるには十分過ぎた。僕はこの数年、石若駿という若き"天才ドラマー"が"名ドラマー"へと化けつつある姿をくるりのステージを通して観てきた。くるりの活動には今やくるりの物語だけがあるわけではない。そこにはくるりよりもはるかに若いミュージシャンが成長していく姿までもが入っている。そして、それはこの日のステージに鮮やかに記録されていた。僕はこの日のくるり(と石若駿)を見て、くるりってバンドが日本の音楽シーンにおいて、どんだけ偉大な存在なのかを改めて感じたのであった。少なくとも僕は石若駿をジャズクラブでの演奏が中心にあるジャズ・ドラマーだと思っていたので、「アナーキー・イン・ザ・ムジーク」みたいな曲をあんなにかっこよく叩けるドラマーだと思っていなかった。しかも、ガーデンシアターのような大きな会場の隅々にまで届くような演奏ができるドラマーだとも思ってなかった。この数年での進歩には目を見張るものがあると思う。

そんな今や"日本一のドラマー"の成長の舞台にもなれるのは、くるりの音楽が一向に懐メロにならない音楽性の高さがあるからなのは言うまでもない。

 

今回のライブでも特別な企画だからこその編成で岸田のアレンジ欲を刺激しまくっていて、どの曲からもいちいち何かしらの発見があるようなサウンドになっている。前述の「惑星づくり」はホーンやマリンバを入れて、スティーブ・ライヒ的なミニマル・ミュージックや、(懐かしの)ディラン・グループやマイス・パレードなどのシカゴ系ポストロックにも通じる原曲を拡張したようなサウンドをライブでも聴かせつつ、原曲には無いオリエンタルなフレーズやソロが入ってきたりと、一見、昔と変わらないようでいて、かなり大胆な変化も入れている。「ワンダーフォーゲル」ではティンパニが使われていて、人力テクノのサウンドかと思いきや、ドラムセットの音色とは全く異なるファンファーレ的な華やかさが加わり、不思議な1曲になっていたのも面白かった。特にグッときたのはコーラスやホーンが加わった「琥珀色の街、上海蟹の朝」。この曲のインスピレーションになっていると思われるディアンジェロを始めとした(ソウルクエリアンズが制作した)ネオソウルはポストプロダクションを前提に空間を活かしたサウンドが多い。だから、ディアンジェロもライブではホーンやコーラスを入れて、厚みを出すなど、スカスカに聴こえないようなライブ用アレンジを施して、きちんと盛り上がるようなエネルギーを表現することが多い。またネオソウルをはじめゴスペル出自のミュージシャンは更にキーボードを2人にして厚みをつけることも少なくない。今回の特別編成での「琥珀色の街、上海蟹の朝」は正にそのホーンにコーラスにキーボードが2人だったわけで、このネオソウル的な曲のライブ・バージョンに理想的な厚みや響きを実現できていた。こんなアレンジが聴けるのは今回の25周年企画ならではだろう。単純に贅沢なライブだったと思う。

そして、2:09:00からの「ソングライン」。様々な楽器が入れ代わり立ち代わり、前面に出てきたり、歌の後ろでカウンターメロディを奏でていたりするこの曲の構造の面白さは、切り替わるカメラにより視覚で耳が補完されたその複雑なアンサンブルがはっきりと聴こえてくる。2:10:00から、マリンバ、ホーンへと画面が切り替わり、それまでのアンサンブルにホーンのラインが加わり、その直後に更にそこにコーラスも加わるサウンドは巻き戻して、何が起きているかを聴くべき部分だと思う。実際のライブ会場では“相変わらず変わったアレンジだな”と思って聴いていたカラフルさが、画面を通すと緻密なパズルとして目の前の現れるのは快感ですらある。彼らはこのライブのためにこんなものをこの完成度で仕上げてきたわけだ。これをライブで演奏していたという事実が更なる感動を呼ぶ。そして、その偏執的なまでのこだわりがあるからこそ、ここに放り込まれた若き才能はそのポテンシャルをさらに伸ばすきっかけを得ることができる。

だから僕はくるりの25年分からは現在や未来を聴きとった。未来の音が鳴っているみたいな話ではなく、ここで演奏されていたものが育んだものが未来を作る可能性を感じた、という方がふさわしいだろうか。この25周年を記念したライブには演奏の成熟ももちろんあったし、「ソングライン」のようにまだまだチャレンジしていて発展途上だと本人たちが思っているのも伝わってくる。くるりのこだわりと留まることを知らない向上心や好奇心が30周年ではどうなっているか。僕らはそれをどう受け止められるか、今から楽しみになってしまうライブでもあった。
 


Text:柳樂光隆
Photo:岸田哲平

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SET LIST

 

01. ランチ
02. 虹
03. 窓 
04. 惑星づくり
05. ばらの花
06. ワンダーフォーゲル
07. ワールズエンド・スーパーノヴァ
08. 水中モーター
09. Morning Paper
10.ロックンロール
11. The Veranda
12. BIRTHDAY
13.ジュビリー 
14.アナーキー・イン・ザ・ムジーク
15.さよならリグレット
16. pray
17.魔法のじゅうたん
18. everybody feels the same
19. o.A.o
20. loveless
21. There is (always light)
22. 琥珀色の街、上海蟹の朝
23. ふたつの世界
24. How Can I Do?
25. ソングライン

ーENCOREー
26. 心のなかの悪魔
27. 潮風のアリア

 

 

MEMBER


岸田繁(Vo&Gt)
佐藤征史(Ba)
石若駿(Dr)
松本大樹(Gt)
野崎泰弘(Key)
ハタヤ テツヤ(Key)
山﨑大輝 (Per)
加藤哉子(Cho)
ヤマグチヒロコ(Cho)
副田整歩(Sax&Cl)
大石俊太郎(Sax&Cl)
沢圭輔(Mp)